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大学も現場も課題は山積

2012年11月16日 (金)

 薬学部6年制第1期生の約3割が病院薬剤師になった。平成元(1989)年まで遡っても、23%(1667人)にとどまり、分業進展と共に病薬の比率は15%程度に定着してきたが、今年の割合は実にその倍に達した。ただし、実数は2522人で、09年3月卒の調査で病薬への就職が17%(1812人)と“4年制”最後の年に増加したものの、2年間のブランクを考えれば、際立って多くの1期生が病薬に就いたわけでない。

 4年制時代、20~25%が進学したとはいえ毎年1万人を超す卒業生があった。その後、新設ラッシュ開始の03年に2校、04年8校、05年6校、6年制スタートの06年に5校が薬剤師教育を始めたが、“薬剤師”括りでは、卒業者は増えていない状況にある。

 一方の薬学生は、就職先のことはさておき、国家試験に集中できる幸せな環境にある。地獄のような就活を課せられている“普通の学生”とは別世界だ。薬剤師が溢れる。どこかの国のように卒業してもタクシードライバーなど、ほかに職を求めるしかない――と、いわれた時期があったことさえ嘘のようだ。

 そんな折、今月初旬、中国四国ブロックの病院薬剤師会の会長会議で、今春の診療報酬改定で新設された病棟薬剤業務実施加算の「算定施設が存在しない県がある」ことが報告された。鳥取、島根の両県では、薬剤師確保が難しい状況が続き、人員不足のため、同加算の算定をした病院がない、というショッキングな報告があった。大学病院があるにもかかわらずだ。

 また、増員なしに同加算の算定に踏み切らざるを得ない状況も見られるという。増員が叶わず、算定できないのはともかく、「増員できずに勤務時間が長引き、休めない」「無理して算定し、燃え尽き症候群になるのではと危惧される」――など、リスク管理の中心的存在であるべき薬剤師が、むしろリスクの中心になりそうな、といった現況報告であろう。

 来年度は新たに5大学から第1期生が輩出される。関係者によれば、4月改正に間に合わなかった病院が「来年度はぜひ」と薬剤師確保に力を入れている。来年度も「売り手市場」であろう。

 5大学では当初、約600人(定員710人)が入学している。このところの留年率等を見ると、何人が卒業し、何人が薬剤師になれるか。「新制度の薬学部および大学院における研究・教育等の状況に関するフォローアップWG」でも、留年者が多い大学では、基礎学力不足が指摘されている。選抜のあり方が問われよう。

 困難を抱えつつも、次代に向けて病棟薬剤業務実施加算を機に次のステージを目指す病薬、地域の保健医療での活躍の場を切り開こうとする開局薬剤師。その未来を支えるのは唯一薬学部だけ。一方、将来を示すのは現場薬剤師。それぞれの役割が全うされるのを願うばかりだ。



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