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AMR対策、合意形成の好機

2021年04月30日 (金)

 新型コロナウイルス感染症の拡大が続く中、細菌やウイルスによる感染症は人類の脅威になり得ることを改めて思い知った人は少なくないだろう。今回のパンデミックを教訓に、国は日本の製薬企業がワクチンを速やかに開発できる仕組みを整備すべきだが、もう一つ忘れてはならないのは、薬剤耐性(AMR)菌による脅威への対策強化だ。

 日本では、新型コロナウイルス感染症でこれまで約1万人が死亡した。一方、薬剤耐性菌による死者数は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とフルオロキノロン耐性大腸菌の2種類だけでも年間約8000人に達すると推定されている。パンデミックのように頻回に報道されないだけで、実際には薬剤耐性菌による死者は少なくない。

 パンデミックは短期間で多くの市民に広がり、多数の死者を生み出すが、いずれ収束に向かうと見られる。一方、薬剤耐性菌は社会にじわじわと広がり、容易には収束しない。同じ脅威でも、その性質は異なる。

 AMR対策の重要性は、以前から世界で指摘されてきた。日本でも政府が2016年に、5カ年の対策や数値目標を盛り込んだAMR対策アクションプランを策定した。18年には、製薬企業や関連学会、団体が集まりAMRアライアンス・ジャパンを設立。世界的には昨年、日本の5社を含む20社以上の製薬企業が集結し、ベンチャー等へ1000億円規模の投資を行って新規抗菌薬の開発を促進するAMRアクションファンドが発足した。

 日本の製薬企業は、世界で通用する抗菌薬を開発した実績を持つが、耐性化に伴い開発のハードルが上がる一方、難易度に見合う収益を確保しづらいため、新たな抗菌薬開発に十分な投資を行えない。AMR対策の一つとして、製薬企業の抗菌薬開発がビジネスとして成り立つよう支援することが重要だ。

 近年は、抗菌薬上市後に製薬企業が手にする収益を引き上げるプル型インセンティブの導入が注目されている。具体的には、▽使用量に関係なく国が一定期間の利用権として定額料金を支払う定期定額購買制度(サブスクリプションモデル)▽承認取得時に国が製薬企業に適切な報酬を支払う製造販売承認取得報償付与指定制度(マーケットエントリーリワード)▽他の医薬品と同程度の利益確保を国が約束する利益保証制度――などが候補に挙がっている。形は違えど、いずれも税金が原資になる点では同じだ。

 もはや感染症の脅威は、医療という枠を飛び越え、国の危機管理や安全保障という文脈で語られる問題になった。業界関係者は、パンデミックやAMR対策に公的資金を投じることがいかに理に適っているのかを積極的に発信し、社会の合意形成を目指すべきだろう。新型コロナウイルス感染症の拡大に国民が直面する今こそ、理解を深めてもらう良い機会になる。



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