医薬品開発協議会がワクチン開発・生産体制強化に関する提言を公表した。パンデミックなど緊急事態でも対応できるワクチンの研究開発・製造体制の構築を実現するために国家戦略を示した格好だ。
提言では、ワクチンの研究開発を主導する司令塔機能の設置や薬事プロセスの迅速化、世界トップレベルの研究開発拠点形成、ベンチャー育成など課題に対する必要な対応策が盛り込まれている。
日本のワクチン産業には魅力がなく、リスクが高く投資回収も不透明との指摘もあり、製薬企業は敬遠していた領域だった。新型コロナウイルス感染症ワクチンでは、海外メーカーが先んじて薬事承認を取得する一方、国内メーカーは1社も承認を得ていない。
国民に対して有効で安全なワクチンを早く届けていくために、国産ワクチンを確保しておくことは重要だ。提言が確実に実行され、長期視点でワクチン産業の強化が進められることに期待したい。
提言の実現に向けては、ワクチンを国内で開発・生産できるメーカーを増やすというよりは、世界で戦えるワクチンメーカーを育てていくことが急務となる。
日本のワクチン市場は医薬品市場の3%程度に過ぎず、世界のワクチン市場は欧米4社による寡占市場と集約化されている。
当然ながら、海外企業との厳しい競争が予想される。新型コロナウイルス感染症ワクチンでは、米ファイザーや米モデルナが開発したmRNAワクチンなど新たなタイプのワクチンが登場した。
バイオ医薬品で欧米企業の後塵を拝した日本企業が最先端のワクチン研究に追随するのは容易ではなく、経験の差が今後のワクチン開発の動向にも影響を及ぼす。
製薬企業は勝算のある領域に事業の選択と集中を進めており、国が描いたワクチンの産業政策にどこまでついてこられるかが心配だ。海外展開をしっかり支援していく取り組みも必要だろう。
平時から有事を見据えて感染制御の方針を示す国の司令塔機能のあり方も考えなくてはならない。医薬品の研究開発を支援してきた日本医療研究開発機構(AMED)には提供する研究費の規模が小さく、公募による個別研究の域を出ていないなどと提言でも指摘され、予算配分の仕方もバラマキとの批判もある。
緊急時に国策としてワクチン開発を迅速に推進できるよう、政府はAMED内に平時からの研究開発を主導する体制「スカーダ(仮称)」を新設する。まとまった研究費を迅速かつ機動的に投入していくという。資金配分を行う「プロボスト」に誰を任命するのか注目したい。
ワクチンについて「官」から初めて戦略的視点が入ったビジョンが示された。かけ声だけでは同じ失敗を繰り返すことになる。ワクチン産業の育成にどれだけ予算投入できるか国の本気度を見たい。