CDMO(医薬品開発製造受託機関)とは?:製薬企業のファブレス化

更新日:2025年12月15日 (月)

 近年、医薬品産業を取り巻く環境は劇的な変化を遂げています。かつての大規模な自社工場による垂直統合型のビジネスモデルから、機能ごとに専門企業を活用する水平分業型へとシフトが進んでいます。その中心にあるのが、今回解説する「CDMO」です。

 新薬開発の難易度が高まり、低分子から抗体医薬、さらには細胞・遺伝子治療へと多様化する中で、製薬企業一社ですべての技術と設備を保有することは現実的ではなくなりつつあります。創薬ベンチャーの台頭や、医薬品の安定供給、そして経済安全保障の観点からも、CDMOの役割に注目が集まっています。

 本記事では、CDMOの基礎的な定義からCMOとの違い、製薬企業が活用するメリット、そして再生医療分野における最新動向までを網羅的に解説します。薬事日報が報じてきた業界ニュースの文脈を整理し、皆様の実務に役立つ情報として再構成しました。

CDMO(医薬品開発製造受託機関)の基礎知識

CDMOとは何か?

 CDMOとは、Contract Development and Manufacturing Organizationの略称であり、日本語では「医薬品開発製造受託機関」と訳されます。これは単に製造を請け負うだけでなく、製薬企業のパートナーとして、開発初期段階から商用生産に至るまでの包括的なサービスを提供する組織を指します。

 従来の製薬ビジネスにおいて、製薬会社は創薬研究から治験薬製造、臨床開発、申請、そして商用生産までを自社で完結させるのが一般的でした。しかし、医薬品のモダリティが高度化し、製造プロセスが複雑になるにつれて、外部の専門性を活用する必要性が高まりました。ここで登場したのがCDMOです。

 CDMOは、GMP(Good Manufacturing Practice)省令等の規制要件に準拠した高度な製造施設を保有し、低分子医薬品からバイオ医薬品、特殊な細胞加工製品に至るまで、幅広いニーズに対応します。

 CDMOの主要な役割は、製薬企業の「持たざる経営(ファブレス化)」を支援し、効率的な製品開発をサポートすることにあります。例えば、前臨床段階における製剤設計や、治験薬のスケールアップ検討、分析法の開発など、承認申請に必要なデータの取得もCDMOの業務範囲に含まれます。特に、世界的なパンデミックのような緊急時において、ワクチンや治療薬を迅速に供給するためには、CDMOの巨大な生産キャパシティと技術力の重要性が改めて浮き彫りになりました。

 また、CDMOは単なる下請けではありません。その専門性を活かし、プロセス開発における課題解決や、コストダウンの提案など、製薬企業と対等な立場でプロジェクトを推進します。欧米のメガファーマのみならず、日本の大手製薬企業においても、CDMOへの委託比率は増えているとされています。これは、自社のリソースを創薬研究やマーケティングといったコア業務に集中させるための戦略的判断であり、CDMOは今や医薬品エコシステムにおいて欠かせないインフラとなっているのです。

CDMOとCMOの違い

 CDMOとよく似た言葉に「CMO(Contract Manufacturing Organization:医薬品製造受託機関)」があります。両者の違いを明確に理解することは、委託先選定において極めて重要です。最大の違いは、「D(Development:開発)」の機能を持っているかどうかにあります。

 CMOは、主に「製造」に特化した業態です。製薬企業から技術移転された既存の製法に基づき、指定された仕様の医薬品を効率的に生産することを得意とします。つまり、製法が確立された後の商用生産や、特許切れ後の後発医薬品(ジェネリック)の製造などで強みを発揮します。

 一方、CDMOはこれに加え、「開発」の機能を併せ持ちます。具体的には、まだ製法が確立していない開発初期段階から参画し、最適な処方設計や製造プロセスの構築(プロセス開発)、治験薬の製造、さらには商用生産へのスケールアップ技術の確立までをワンストップで受託することが可能です。

 この違いは、特にバイオ医薬品や再生医療等製品のような、製造プロセスそのものが品質に直結する高度な薬剤において顕著になります。低分子医薬品であればCMOへの技術移転も比較的容易ですが、培養条件や精製工程が複雑なバイオ医薬品では、開発段階からのノウハウの蓄積が不可欠です。CDMOは、高度な分析技術や品質保証体制を駆使し、詳細なプロセスパラメーターを設定することで、規制当局が求める厳格な品質基準をクリアします。

CDMOの活用と業界の現状

製薬会社がCDMOを利用するメリット

 製薬企業がCDMOを積極的に活用する背景には、明確な経済的・戦略的メリットが存在します。主なメリットとして、「コストの最適化」「最先端技術へのアクセス」「サプライチェーンの柔軟性」の3点が挙げられます。

 第一に、コスト削減と資本効率の向上です。医薬品製造、特にバイオ医薬品の製造施設の建設と維持には、莫大な初期投資と固定費がかかります。すべてのパイプラインに対して自社工場を建設することは、開発中止のリスクを考慮すると極めて非効率です。CDMOを利用することで、製薬企業は固定資産を持たずに製造キャパシティを確保でき、変動費化することが可能になります。これにより、経営資源を創薬研究や臨床開発といった、より付加価値の高い領域に集中投下することができます。

 第二に、高度な専門知識と技術の活用です。現在の医療ニーズは、がん、希少疾患、免疫疾患など、より複雑な領域へとシフトしています。これに伴い、製造技術も高度化しており、例えば抗体薬物複合体(ADC)や核酸医薬などの特殊な製剤技術を自社単独で確立するには長い時間を要します。CDMOは、複数の顧客とのプロジェクトを通じて多様な技術とノウハウを蓄積しており、これらを活用することで、製薬企業は技術的なハードルを迅速にクリアできます。製薬業界全体でオープンイノベーションが進む中、CDMOは技術のハブとしての機能も果たしています。

 第三に、生産能力の柔軟性と事業継続計画(BCP)への寄与です。新薬の市場需要は予測が難しく、上市直後に需要が急増する場合もあれば、競合品の登場により減少する場合もあります。CDMOを活用すれば、需要変動に応じて生産量を柔軟に調整でき、欠品や過剰在庫のリスクを低減できます。また、近年重要視されている医薬品の安定供給の観点からも、複数の製造拠点を(自社とCDMO、あるいは複数のCDMOで)確保しておくことは、災害時などのリスクヘッジになります。患者さんの医薬品へのアクセスを守るためにも、堅牢なサプライチェーンの構築は不可欠であり、CDMOはそのための重要なピースとなっているのです。

薬事日報で読むCDMO

 薬事日報が報じる最新のニュースにおいて、再生医療・細胞医療・遺伝子治療分野のCDMO動向は、国の産業政策と密接に連動した極めてホットなトピックです。特に2025年後半にかけて、政府による巨額の設備投資支援が本格化しており、業界地図が大きく動き出しています。

 その象徴的な動きが、経済産業省による「再生・細胞医療・遺伝子治療製造設備投資支援事業費補助金」です。これは他家iPS細胞製品の大規模工業 化などを目的に、4年間で総額383億円を投じる国家プロジェクトであり、2025年7月には13件の事業が採択されました。

 注目すべきはこの採択企業の顔ぶれです。GMP/GCTP(再生医療等製品の製造管理・品質管理基準)準拠の製造経験を持つ「通常枠」として、S-RACMO、サイトファクト、JCRファーマ、ジャパン・ティッシュエンジニアリング、ニコン・セル・イノベーション、ミナリスアドバンストセラピーズの6社が名を連ねています。また、新たな技術導入を目指す「新技術導入促進枠」には、アステラス製薬やクオリプス、ヘリオスなど7社が選定されました。これらの企業は、製品の次世代製造に必要な自動化装置や品質管理システムの導入を進めており、日本の創薬シーズを支える製造基盤としての役割が期待されています。

 また、政府全体の動きとしても、CDMO支援は「経済安全保障」の要として位置づけられています。2025年11月に示された総合経済対策の重点施策では、創薬・先端医療分野において、再生・細胞医療・遺伝子治療の研究開発促進と共に、その生産拠点となるCDMOの設備投資を支援することが明記されました。

 課題とされていた「人材」についても対策が進んでいます。厚生労働省は、バイオ医薬品の国内製造体制が脆弱であり、特にバイオCMO/CDMOが限られていることが新薬開発の支障になっていると分析しています。これを受け、製造技術や開発ノウハウに関する研修対象を、従来の抗体医薬やウイルスベクター製品に加え、細胞加工製品にも拡大する方針を打ち出しました。

 このように、薬事日報の記事からは、設備(ハード)と人材(ソフト)の両面から、国を挙げて再生医療CDMOの国内基盤を強化しようとする大きな潮流を読み取ることができます。

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薬事日報で読むCDMO(記事の読み解き方)

 最後に、薬事日報に蓄積された膨大な記事の中から、CDMO関連の情報をどのように読み解くべきか、その視点を整理します。時系列で記事を追うことで、業界の大きな潮流が見えてきます。

1. 黎明期~拡大期(~2019年頃): 当初、CDMOに関する記事は、主にジェネリック医薬品の普及に伴う製造委託の増加や、海外CDMOの日本市場参入といったトピックが中心でした。また、国内製薬企業が自社工場を売却し、CDMOとして独立させる「カーブアウト」の事例も多く報じられました。これらの記事からは、製薬業界の構造改革が始まった経緯を読み取ることができます。

2. パンデミックとサプライチェーン(2020年~2022年): 新型コロナウイルスの世界的流行により、記事のトーンが一変しました。ワクチンや治療薬の迅速な供給に向けた、国内CDMOの体制整備、政府による生産設備整備支援事業の採択結果などが連日報じられました。この時期の記事は、国家の安全保障としての医薬品製造能力の重要性を浮き彫りにしています。

3. モダリティ多様化とグローバル競争(2023年~現在): 直近の記事では、抗体医薬、核酸医薬、遺伝子治療といった新規モダリティに対応するための、技術提携や巨額投資のニュースが目立ちます。また、国内CDMOが海外市場へ進出する動きや、逆に海外の大手CDMOが日本国内に新拠点を設ける動きなど、国境を越えた競争と協業が活発化しています。さらに、医薬品の安定供給確保に向けた法整備や、薬価制度改革とCDMOビジネスの関連性についても深く掘り下げた解説記事が掲載されています。

 薬事日報 電子版の「検索」機能を活用し、特定の企業名や「バイオ」「無菌製剤」「高薬理活性」といったキーワードで絞り込むことで、皆様の関心領域にマッチした最新情報を効率的に収集できます。業界の最前線で何が起きているのか、その背景にはどのような規制変化や技術革新があるのか。薬事日報の記事は、単なるニュースの羅列ではなく、次の一手を考えるための羅針盤となるはずです。ぜひ、日々の業務における情報源としてご活用ください。

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