
2025年05月08日に開かれた参議院厚生労働委員会で、導入を予定する特定要指導医薬品の対象品目について厚生労働省の城克文医薬局長は「薬剤師の面前服用が必要など、悪用防止のために厳格な管理が必要なもの」との見解を示した。
要指導医薬品は、医師の処方箋を必要とせずに薬局やドラッグストアで薬剤師が対面販売可能な医薬品として、2013年12月に可決された薬事法(※施行時に「医薬品医療機器等法(薬機法)」へ改称)で設置されました。
この時の薬機法では、ほぼ全ての一般用医薬品のネット販売が解禁されましたが、ネット販売には不適切とされた品目を「要指導医薬品」として区分けし、薬剤師による対面販売が義務づけられました。
このとき「要指導医薬品」は、1.医療用医薬品を経ずに新規有効成分として直接OTC化された品目、2.スイッチ直後品目(医療用医薬品から一般用にスイッチされた後、製造販売後調査期間中のもの)、3.毒薬・劇薬指定成分を含む一般用医薬品が該当すると規定されました。
また「要指導医薬品」は、安全性評価を経たのち第1類医薬品へ移行することが想定されており、医療用医薬品から一般用医薬品への移行過程で慎重を要する成分を暫定的に扱う区分と位置づけられています。
2025年の薬事法改正では、それまで対面販売が義務付けられていた要指導医薬品について、オンライン服薬指導による販売が解禁されました。これに伴い「特定要指導医薬品」が新たに設けられ、適正使用のために必要な確認を対面で行う必要があるとされた品目については「特定要指導医薬品」としてオンライン服薬指導での販売が禁止されました。
セルフメディケーションが推進されるなか、安全性に注意を要する「要指導医薬品」への対応力を高めることは、薬剤師の社会的価値を向上させるうえで重要なポイントとなります。若手薬剤師の皆様には、この記事を通じて要指導医薬品の正しい理解を深めていただければ幸いです。
【参院本会議】「改正薬事・薬剤師法」が成立‐「要指導医薬品」を新設(2013年12月09日)
【参院厚労委で城医薬局長】薬剤師の面前服用が必要‐「特定要指導医薬品」対象(2025年05月12日)
要指導医薬品が設置された経緯
要指導医薬品が2013年に設置された主な経緯は以下の通りです。
1. 最高裁判決への対応
2013年1月、最高裁判所は一般用医薬品のインターネット販売を全面的に禁止する厚生労働省の省令を違法と判断しました。この判決を受け、医薬品をリスクに応じて適切に分類し直す必要が生じました。
ネット販売禁止省令は違法‐ケンコーコムら2社が勝訴(2013年01月16日)
2. 安全性確保とアクセス拡大のバランス
特にリスクの高い一般用医薬品については、対面販売による安全確保を法的に担保しつつ、その他の医薬品についてはインターネット販売も含めた入手経路の多様化を図るという両立策が求められました。
【ネット検討会】条件提示も議論深まらず‐次々回までにたたき台(2013年05月01日)
3. スイッチOTCのリスク管理強化
医療用から一般用へ移行したばかりの医薬品(スイッチOTC)は、一般消費者の使用経験が限られているため、初期段階での慎重な安全性モニタリングが必要とされました。
【厚労省】“最大限の情報”で対立‐第1類は使用者本人が原則(2013年05月20日)
4. セルフメディケーション推進政策との整合性
政府のセルフメディケーション推進政策と安全性確保を両立させる制度的枠組みとして、薬剤師の介入が必要な医薬品区分が必要でした。
【政府】成長戦略を閣議決定‐薬ネット販売が原則解禁へ(2013年06月17日)
5. 薬剤師の専門性の明確化
対人業務を重視する薬剤師の役割転換において、薬剤師にしか販売できない医薬品区分を明確化することで、専門職としての位置づけを強化する意図がありました。
薬ネット販売、「解禁は誠に遺憾」‐薬局・薬剤師活用は評価(2013年06月17日)
要指導医薬品の創設により、リスクに応じた段階的な規制体系が整備され、特にリスクの高い医薬品については薬剤師による対面での情報提供と服薬指導を通じて安全性を確保する仕組みが構築されました。
要指導医薬品の法的定義
要指導医薬品は、医薬品医療機器等法第4条第5項第3号で定義される医薬品区分で、その特徴は次の通りです。
- 人体への作用が著しくないもの
- 医薬関係者からの情報に基づき需要者が選択して使用するもの
- 適正使用のために薬剤師による対面での情報提供と指導が必要なもの
- 一般用医薬品への転用後間もない医療用医薬品や、毒薬・劇薬のうち厚生労働大臣が指定したもの
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
第四条第5項第3号
要指導医薬品 次のイからニまでに掲げる医薬品(専ら動物のために使用されることが目的とされているものを除く。)のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであつて、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものであり、かつ、その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なものとして、厚生労働大臣が薬事審議会の意見を聴いて指定するものをいう。イ その製造販売の承認の申請に際して第十四条第十一項に該当するとされた医薬品であつて、当該申請に係る承認を受けてから厚生労働省令で定める期間を経過しないもの
ロ その製造販売の承認の申請に際してイに掲げる医薬品と有効成分、分量、用法、用量、効能、効果等が同一性を有すると認められた医薬品であつて、当該申請に係る承認を受けてから厚生労働省令で定める期間を経過しないもの
ハ 第四十四条第一項に規定する毒薬
ニ 第四十四条第二項に規定する劇薬
その具体的な内容は厚生労働省の資料にまとめられています。
- 新医薬品であって、再審査期間中のもの(医療用医薬品を経ずに直接OTCとして承認された品目)
- 医療用医薬品から転用された医薬品であって、製造販売後調査期間中のもの(スイッチ直後品目)
- 薬機法第44条第1項に定める毒薬及び薬機法第44条第2項に定める劇薬
要指導医薬品の販売規制
要指導医薬品の販売については医薬品医療機器等法(薬機法)の第36条第5項第6項で厳格な規制が設けられています。
販売者の制限
薬局開設者または店舗販売業者のみが販売でき、実際の販売行為は薬剤師が行わなければならない。
対面販売の義務
薬剤師による対面での販売のみが認められ、インターネットや通信販売は禁止されている。
情報提供と指導の義務
販売時に薬剤師が書面を用いた情報提供と薬学的知見に基づく指導を対面で行う必要がある
使用者の年齢、他の薬剤使用状況などを事前に確認しなければならない
販売対象の制限
実際に使用する本人以外への販売は正当な理由がなければ禁止(薬剤師等への販売は例外)
相談応需義務
購入者や使用者からの相談に薬剤師が応じる体制が必要
第三十六条第五項:(要指導医薬品の販売に従事する者等)
第三十六条の五 薬局開設者又は店舗販売業者は、厚生労働省令で定めるところにより、要指導医薬品につき、薬剤師に販売させ、又は授与させなければならない。
2 薬局開設者又は店舗販売業者は、要指導医薬品を使用しようとする者以外の者に対して、正当な理由なく、要指導医薬品を販売し、又は授与してはならない。ただし、薬剤師等に販売し、又は授与するときは、この限りでない。
第三十六条第六項:(要指導医薬品に関する情報提供及び指導等)
第三十六条の六 薬局開設者又は店舗販売業者は、要指導医薬品の適正な使用のため、要指導医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局又は店舗において医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に、対面により、厚生労働省令で定める事項を記載した書面(当該事項が電磁的記録に記録されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を厚生労働省令で定める方法により表示したものを含む。)を用いて必要な情報を提供させ、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない。ただし、薬剤師等に販売し、又は授与するときは、この限りでない。
2 薬局開設者又は店舗販売業者は、前項の規定による情報の提供及び指導を行わせるに当たつては、当該薬剤師に、あらかじめ、要指導医薬品を使用しようとする者の年齢、他の薬剤又は医薬品の使用の状況その他の厚生労働省令で定める事項を確認させなければならない。
3 薬局開設者又は店舗販売業者は、第一項本文に規定する場合において、同項の規定による情報の提供又は指導ができないとき、その他要指導医薬品の適正な使用を確保することができないと認められるときは、要指導医薬品を販売し、又は授与してはならない。
4 薬局開設者又は店舗販売業者は、要指導医薬品の適正な使用のため、その薬局若しくは店舗において要指導医薬品を購入し、若しくは譲り受けようとする者又はその薬局若しくは店舗において要指導医薬品を購入し、若しくは譲り受けた者若しくはこれらの者によつて購入され、若しくは譲り受けられた要指導医薬品を使用する者から相談があつた場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局又は店舗において医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に、必要な情報を提供させ、又は必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない。
またこの他に販売記録の作成・保存が必要とされており、これらの条件を満たせない場合、販売してはならないとされています。
販売記録の作成・保存については日本薬剤師会が実務上の確認リストを作成しています。
要指導医薬品の販売規制をまとめると次の通りとなります。
・薬剤師による対面販売のみ許可(インターネット販売不可)
・薬剤師による情報提供と服薬指導が義務付け
・販売記録の作成・保存が必要
要指導医薬品の一覧表
要指導医薬品の一覧表は厚生労働省のホームページで公開されています。
(令和7年6月27日 更新)の情報は下の通りです。
有効成分 | 販売名 | 製造販売業者 | 承認年月日 |
ランソプラゾール | タケプロンs | アリナミン製薬株式会社 | 令和7年7月10日 |
オメプラゾール | オメプラールS サトプラール |
佐藤製薬株式会社 | 令和7年6月27日 |
メロキシカム | メロキシン | エスエス製薬株式会社 | 令和7年3月21日 |
ラベプラゾールナトリウム | パリエットS パリエット10 |
エーザイ株式会社 | 令和7年3月21日 |
モメタゾンフランカルボン酸エステル水和物 | ナゾネックス点鼻薬<季節性アレルギー専用> ナザールNX<季節性アレルギー専用> |
佐藤製薬株式会社 | 令和7年2月25日 |
ブリモニジン酒石酸塩 | マイティアルミファイ | 千寿製薬株式会社 | 令和6年9月3日 |
フルルビプロフェン | ヤクバン ヤクバンL ヤクバンXL |
株式会社トクホン | 令和6年3月28日 |
ロキソプロフェンナトリウム水和物/メキタジン/L-カルボシステイン/チぺピジンヒベンズ酸塩 | パブロンLX錠 パブロンBiz錠 パブロンエースLX錠 パブロンSゴールドLX錠 |
大正製薬株式会社 | 令和6年3月18日 |
ロキソプロフェンナトリウム水和物/d-クロルフェニラミンマレイン酸塩/ジヒドロコデインリン酸塩/dl-メチルエフェドリン塩酸塩/グアイフェネシン/無水カフェイン | コルゲンコーワLX錠 | 興和株式会社 | 令和5年8月22日 |
ロキソプロフェンナトリウム水和物/ブロムヘキシン塩酸塩/クレマスチンフマル酸塩/ジヒドロコデインリン酸塩/dl-メチルエフェドリン塩酸塩 | ルルアタックLX ロキソニン総合かぜ薬 |
第一三共ヘルスケア株式会社 | 令和5年8月22日 |
フェキソフェナジン塩酸塩/塩酸プソイドエフェドリン | アレグラFXプレミアム | サノフィ株式会社 | 令和5年3月27日 |
オキシコナゾール硝酸塩 | オキナゾールL600 | 田辺三菱製薬株式会社 | 令和5年3月27日 |
オルリスタット | アライ | 大正製薬株式会社 | 令和5年2月17日 |
ポリカルボフィルカルシウム | ギュラック | 小林製薬株式会社 | 令和4年9月16日 |
ヨウ素/ポリビニルアルコール(部分けん化物) | サンヨード | 参天製薬株式会社 | 令和4年6月3日 |
イトプリド塩酸塩 | イラクナ | 小林製薬株式会社 | 令和3年12月27日 |
ナプロキセン | モートリンNX | JNTLコンシューマーヘルス株式会社 | 令和3年8月31日 |
セイヨウハッカ油 | コルペルミン | ゼリア新薬工業株式会社 | 令和3年8月31日 |
プロピベリン塩酸塩 | バップフォーレディ ユリレス |
大鵬薬品工業株式会社 | 令和3年5月31日 |
要指導医薬品(劇薬)の一覧表
要指導医薬品(劇薬)の一覧表は厚生労働省のホームページで公開されています。
(令和7年6月27日 更新)の情報は下の通りです。
販売名 | 製造販売業者 | 承認年月日 |
ガラナポーン | 大東製薬工業株式会社 | 昭和41年1月25日 |
ハンビロン | 日本薬品株式会社 | 昭和38年3月5日 |
ストルピンMカプセル | 日本薬品株式会社 | 昭和39年2月7日 |
エフゲン | 阿蘇製薬株式会社 | 昭和43年8月31日 |
要指導医薬品のオンライン服薬指導の動向
要指導医薬品は薬剤師による対面販売が義務付けられるなど厳しい販売規制が課されており、2025年の薬機法改正以前はオンライン服薬指導での販売は原則として禁止されていました。
しかし2025年の薬機法改正では、薬剤師の判断のもとでオンライン服薬指導での販売が可能とされました。これに伴い、適正使用のために必要な確認を対面で行うことが適切であるとされた品目は新たに「特定要指導医薬品」が設けられ、オンラインのみでの服薬指導・販売を禁止し、購入時には薬剤師による対面での指導・確認が必ず求められる制度となりました。
このオンライン服薬指導の一部解禁と特定要指導医薬品の設置は、医薬品の利用者に対する安全管理と、オンライン・オフラインを組み合わせた服薬指導の利便性向上のバランスを追求するために導入されたといえます。
要指導医薬品と緊急避妊薬のスイッチOTC化
緊急避妊薬(アフターピル)のスイッチOTC化(医療用から要指導医薬品および一般用医薬品への転用)の議論が、厚生労働省を中心に進んでいます。
緊急避妊薬は、面前服用(薬剤師の対面確認による服用指導)がスイッチOTC化の条件として重視されており、市民団体などから薬剤師の前で服用を確認する(面前服用)義務は不要であるとの意見が出されましたが、多くの専門家は緊急避妊薬について薬剤師による対面指導の継続を支持しています。年齢制限や保護者の同意については不要との意見で一致しています。
【厚労省検討会議】緊急避妊薬OTC化を議論‐薬剤師の面前服用は必要(厚生労働省)
すでに緊急避妊薬のスイッチOTC化については製造販売承認申請がなされており注目が集まっています。
【あすか製薬HD】「ノルレボ」スイッチOTCを承認申請‐昨年6月に、承認時期は未定(2025年05月20日)
【富士製薬】緊急避妊薬、OTCで申請‐昨年10月、アクセス向上へ (2025年06月30日)
まとめ
2013年に設置された要指導医薬品は、2025年に特定要指導医薬品が新たに設置されるなど、時代に合わせて制度が変化しています。要指導医薬品と特定要指導医薬品ではオンライン服薬指導の可否が別れ、緊急避妊薬の特定要指導医薬品化が議論されるなど、薬剤師の皆様にとっても制度の正確な理解や動向の把握が求められていることは間違いありません。
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