
自民(右)・維新の政調会長間で合意に至った(2025年12月19日)
はじめに
OTC類似薬という言葉をご存じでしょうか。OTC類似薬は、医療用医薬品のうち、要指導医薬品・一般用医薬品(OTC医薬品)と類似する医薬品を指す言葉で、医療保険制度改革の中で重要なキーワードとなっています。長年、保険適用の是非が議論されてきましたが、2025年12月19日の自由民主党と日本維新の会の政調会長間合意を踏まえ、令和8年度中(2027年3月の実施を目指す)に実施する方針が示されています。今回は注目が集まるOTC類似薬の定義から保険適用の是非の背景、患者や医療機関への影響、そして新たな制度の内容まで、薬学生や若手薬剤師の皆さんが知っておくべき基本情報を解説します。
OTC類似薬とは:基本定義と特徴
OTC類似薬の明確な定義はありませんが、一般的には、医療用医薬品として処方されるものの、要指導医薬品・一般用医薬品(OTC医薬品)と有効成分や効能・効果が類似する医薬品を指します。一方、今回の制度案では、OTC医薬品と成分・投与経路が同一で一日最大用量が異ならない医療用医薬品を機械的に選定し、77成分(約1100品目)を対象とする考え方が示されています。対象となり得る領域としては、鼻炎(内服・点鼻)、胃痛・胸やけ、便秘、解熱・痛み止め、かぜ症状、殺菌・消毒、皮膚のかゆみ・乾燥肌などが挙げられています。
OTC類似薬の最大の特徴は、医師の処方箋に基づいて調剤される「医療用医薬品」でありながら、薬局やドラッグストアで処方箋なしに購入できる「OTC医薬品」と成分や効能が類似していることです。
ロキソニンを例に挙げると、医療用医薬品として処方される「ロキソニン錠60mg」と、OTC医薬品として販売される「ロキソニンS」があります。有効成分はいずれもロキソプロフェンナトリウム水和物(無水物として60mg相当)で、製品によっては1錠あたり含量も同じですが、医療用は保険適用される一方、OTCは処方箋を不要とするかわりに全額自己負担となります。
保険適用見直しの背景と制度決定の経緯
近年、OTC類似薬の保険適用の是非が、医療費抑制策として議論されてきました。その背景には、以下のような課題があります。
1.医療費の増大と財政圧迫
日本の医療費は高齢化や医療技術の高度化により年々増加し、令和5年度の概算医療費は約47.3兆円に達しました。こうした財政負担の増大に対応するため、軽度な症状に対する医薬品については、保険適用の見直しが求められてきました。
2.セルフメディケーションの推進
政府は、軽い症状にはOTC医薬品を活用して自分で健康管理を行う「セルフメディケーション」の考え方を推進しています。2017年には「セルフメディケーション税制」も導入され、OTC医薬品の購入に対する所得控除が可能となりました。
OTC類似薬の制度見直しと「選定療養」への位置づけ‐特別料金による部分負担制度
こうした流れを受けて2025年12月19日、自民党と日本維新の会は政調会長間でOTC類似薬の給付見直しに合意しました。これを踏まえ、厚生労働省は新たな仕組み(特別の料金の徴収)を制度案として示しています。これにより、OTC類似薬のうち77成分・約1100品目を対象に、薬剤費の4分の1を「特別料金」として患者が追加で自己負担する仕組みが導入される方向となりました。
以下では、この新たに示された制度の内容と現時点でのOTC類似薬の法的扱いについて詳しく解説します。
OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方について|厚生労働省
「制度概要とポイント整理」
まずは、制度の概略を確認しましょう。
下記の表に見直しの要点をまとめました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度内容 | 薬剤費の4分の1を「特別料金」として患者が自己負担 |
| 対象 | OTC類似薬77成分・約1100品目(例:イブプロフェン、ロキソプロフェン等) |
| 実施時期 | 令和8年度中(2027年3月実施を目指す) |
| 医療費削減効果 | 年間約900億円 |
| 特別料金の適用除外 | 小児、がん・難病患者、低所得者、入院患者、長期使用が必要な患者等 |
| 今後の展望 | 対象範囲の拡大、負担割合の引き上げも検討 |
本制度は、セルフメディケーションの推進と医療費適正化を目的とした社会保障制度改革の一環であり、今後の医療提供体制や患者行動に与える影響が注目されています。
新制度の概要:「選定療養」としての位置づけ
制度案で示されたこの仕組みは、医療用医薬品のうち、OTC医薬品と成分や効能が似ている77成分・約1100品目を対象に、薬剤費の一部を「特別料金」として患者が追加で負担する仕組みです。
この新たな制度は、「選定療養」という枠組みに位置づけられます。選定療養とは、通常の保険診療とは別に、患者が特別な費用を自己負担する制度で、差額ベッド代などがこれに該当します。
たとえば薬剤費が1000円で3割負担だった場合、現状は3割負担の300円を支払います。しかし新たな制度では、次の計算により500円が自己負担となります。
まず、薬剤費1000円の4分の1にあたる250円を「特別料金」とし、それに消費税25円を上乗せした275円が自己負担額となります。次に、残りの4分の3である750円の3割負担分である225円が自己負担額となります。これらを合算した500円が最終的な自己負担額となる計算です。
このように、OTC類似薬に対する新制度では、患者の自己負担が事実上増加することになります。
ただし、処方箋医薬品としての扱いは維持されるため、健康保険の対象から完全に除外(全額自己負担化)されるわけではありません。あくまで特別料金を設定することで自己負担割合が実質的に上昇することにより、患者の自己判断によるOTC医薬品の活用を促しつつ、公的医療費の抑制を図る狙いがあります。
この制度により、OTC類似薬にかかる医療費の一部を患者が負担することで、年間約900億円の医療費削減が見込まれています。
主な対象:77成分・約1100品目
厚生労働省は2025年12月25日の社会保障審議会医療保険部会で、OTC類似薬の保険給付見直しにおける「特別料金」として、患者に薬剤費の4分の1を求める医療用医薬品77成分の内訳を示しました。専門家の意見をもとに具体的品目を精査し、2027年3月に見直し後の制度開始を想定しています。
※具体的な品目は77成分をもとに専門家の意見も踏まえて精査し、対象成分の増減や入れ替えの有無は未定
主な対応症状として、鼻水(内服・点鼻)、胃痛・胸焼け、解熱・痛み止め、殺菌・消毒、かぜ症状全般などが挙げられています。
配慮措置:すべての患者が対象ではない
一方で、すべての患者に一律で負担を求めるのではなく、特別料金の対象外となる人も想定されています。
| 小児(子ども) | 小児用の薬剤は発達段階に応じた適切な受診機会を確保する観点から除外を検討 |
| がん、難病、慢性疾患などの患者 | 治療に用いる薬剤で、代替のOTC医薬品では対応困難なケースは対象外とする方向 |
| 実施時期 | 令和8年度中(2027年3月実施を目指す) |
| 入院中の患者 | 入院中に必要となる薬剤については、自己負担増が過度にならないよう配慮 |
| 低所得者 | 経済的負担能力が低い患者には特例措置を設け、過度な自己負担を回避することを検討 |
| 医師が長期使用を必要と判断した患者 | 医師が治療上やむを得ず長期にわたり当該薬剤の使用が必要と判断した場合、その患者については特別料金の適用除外とする想定 |
これにより、医療上の配慮が必要な方々への負担が過度にならないよう、一定の柔軟性が確保されています。
この制度は、保険財政の健全化を目指すと同時に、セルフメディケーションの推進も目的としています。OTC医薬品で対応できる軽度な症状については、患者自身が判断してOTC医薬品を活用することが期待されています。
今後の制度の展望とスケジュール
制度案として示されたOTC類似薬の選定療養化は、今後の医療制度改革の一環として段階的に進められます。
必要な法令改正を経て新制度が2026年度中に施行された後、政府は2027年度以降に対象範囲のさらなる拡大を検討しています。例えば、対象となるOTC類似薬の成分を追加したり、特別料金の割合(現行では薬剤費の25%)を引き上げるなど、さらなる見直しも示唆されています。
一方で、この制度の円滑な導入・運用には周知と継続的な支援が重要です。患者が自己判断でOTC医薬品に切り替える際には、医師や薬剤師への相談体制の強化や、お薬手帳等を活用した服薬情報の一元管理が欠かせません。厚生労働省も、セルフメディケーション推進の観点から国民への正確な情報提供や啓発、医療従事者の理解促進に取り組む方針です。
患者・医療機関・社会全体への影響
OTC類似薬の保険適用見直しは、患者、医療機関、社会全体にさまざまな影響をもたらします。
患者への影響
- 【経済的負担】自己負担が増えることで、特に慢性疾患のある方には経済的な影響が大きくなる可能性があります。
- 【受診行動の変化】軽い症状では医療機関を受診せず、OTC医薬品で対応する人が増える可能性があります。
- 【セルフメディケーション意識の高まり】自分の健康を自分で管理する意識が高まることが期待されます。
医療機関・薬局への影響
- 【外来患者数の変化】軽症患者の減少により、重症患者への医療資源の集中が進む一方、医療機関の収入減少につながる可能性もあります。
- 【処方内容の変化】保険適用となる代替薬の処方が増える可能性があります。
- 【受診勧奨の役割】薬局やドラッグストアが、症状に応じた適切な受診を促す役割を担うことがより重要になります。
社会全体への影響
- 【医療費抑制効果】診療費や薬剤費の削減が期待されます。
- 【セルフメディケーション市場の拡大】OTC医薬品の市場が活性化する可能性があります。
- 【薬局・ドラッグストアの役割変化】健康相談や情報提供の場としての役割が一層重要になります。
今後の政策動向と展望
OTC類似薬をめぐる政策は、段階的に進展していくと予想されます。
- 【セルフメディケーション税制の拡充】OTC医薬品購入に対する税制優遇措置の拡充が検討されています。
- 【医薬品アクセスの公平性確保】地域や所得による医薬品アクセスの格差を防ぐための配慮が求められます。
- 【薬剤師の役割拡大】セルフメディケーションを支える専門職として、薬剤師の役割がますます重要になります。
海外では、フランスやドイツなどで一部の薬効群に保険適用の制限を設けている例もあり、日本でも今後、独自の制度設計が進められていくと考えられます。
まとめ:医薬品業界で働く方々へ
OTC類似薬をめぐる制度の見直しは、日本の医療制度や薬剤の使い方に大きな変化をもたらす可能性があります。薬学生や若手薬剤師の皆さんにとっては、単なる制度変更としてではなく、国民の健康を守り、限られた医療資源をどう活用するかという視点から、この制度を理解することが大切です。
また今後導入される新たな制度は、保険財政の健全化を目指すと同時に、セルフメディケーションの推進も目的としています。OTC医薬品で対応できる軽度な症状については、患者自身が判断してOTC医薬品を活用することが期待されています。
今後は、制度の実施状況を見ながら、対象となる成分の拡大や、特別料金の割合の見直しも検討される予定です。薬剤師や薬学生にとっては、制度の内容を正しく理解し、患者への丁寧な説明や相談対応が求められる場面が増えることが予想されます。セルフメディケーションを支える専門職としての役割が、今後ますます重要になっていくでしょう。
参考1 選定療養:「長期収載品」と「OTC類似薬」の違い
2024年10月から始まった「長期収載品(先発品)の選定療養」と、2026年度導入の「OTC類似薬の選定療養」は、混同しやすいため注意が必要です。「追加負担が発生する理由」と「計算方法」が異なりますので、ここを整理しておきましょう。
| 項目 | 長期収載品の選定療養(既導入) | OTC類似薬の選定療養(2026年~) |
|---|---|---|
| 対象となる理由 | 「後発品があるのに」あえて先発品を選んだため | 「OTC医薬品があるのに」あえて処方箋で受け取るため |
| 追加負担の対象 | 「差額」の一部 | 「薬剤費そのもの」の一部 |
| 計算の仕組み | (先発品価格 - 後発品最高価格)の4分の1 | 特別料金として徴収される額(薬剤費の4分の1) |
| 患者への影響 | ジェネリックに切り替えれば追加負担は0円 | 原則として追加負担が生じる(ただし子ども、がん・難病等の要配慮者は適用除外を検討) |
| 患者への影響 | ジェネリックに切り替えれば追加負担は0円 | 原則として追加負担が生じる(ただし子ども、がん・難病等の要配慮者は適用除外を検討) |
2つの違いを理解することは、患者さんに「なぜ支払額が変わるのか」を論理的に説明するために重要です。
長期収載品:「ジェネリック(後発品)に変えれば安くなりますよ」という提案が有効。
OTC類似薬:「お薬そのものに特別料金がかかるので、全額自己負担のOTC医薬品を買うのとどちらがメリットがあるか」という比較提案が必要になります。
OTC医薬品(要指導医薬品・一般用医薬品)の特徴
- 処方箋なしで購入可能
- 全額自己負担(保険適用外)
- 自己判断での使用が前提
- 比較的安全性の高い成分・用量で設計
- 第1類〜第3類医薬品に分類され、リスクに応じた販売規制
- 添付文書や包装に一般消費者向けの説明
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OTC医薬品の歴史から、OTC医薬品の開発過程、スイッチOTC、昨今話題となっている“OTC類似薬”、さらには海外の事例まで幅広く網羅し、セルフメディケーションの重要性やヘルスリテラシーの向上に向けた戦略を詳しく掘り下げています。 |



















