かかりつけ薬剤師とは、2016年度診療報酬改定で導入された制度です。2026年度診療報酬改定で「かかりつけ薬剤師指導料」と「かかりつけ薬剤師包括管理料」が廃止され、服薬管理指導料へ統合されました。制度は大きな転換点を迎えています。
本記事では、かかりつけ薬剤師の3つの機能や2026年度改定による点数・算定要件・同意手続きの変更点のほか、浮上している課題まで分かりやすく解説します。
※本記事は、2026年8月18日現在の情報をもとに記載しています。
かかりつけ薬剤師とは?制度の背景
かかりつけ薬剤師とは、患者の服薬情報を一元的・継続的に把握し、薬学的管理・指導を行う薬剤師のことです。
2015年10月23日、厚生労働省は「患者のための薬局ビジョン」を策定しました。同ビジョンは、2025年までにすべての薬局がかかりつけ機能を持つことを目標に掲げています。
背景には、医薬分業の進展とその課題があります。処方箋受取率は、2014年度(平成26年度)に68.7%へ到達。一方で、門前薬局の乱立により、服薬情報の一元的な把握などの機能が十分に発揮されていないとの指摘が出ていました。
2021年6月18日に閣議決定された骨太方針でも、「かかりつけ薬剤師・薬局の普及を進める」と新たに追記されています。
患者のための薬局ビジョン|厚生労働省
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3つの基本的な考え方
患者のための薬局ビジョンは、次の3つの考え方を軸としています。
| 立地から機能へ | 門前薬局など立地に依存し、便利さだけで選ばれる存在から脱却する。 |
| 対物業務から対人業務へ | 薬剤の調製など対物中心の業務から、患者との関わりが深い対人業務へシフトする。 |
| バラバラから一つへ | 服薬情報をひとつにまとめ、多職種・他機関と連携して地域包括ケアの一翼を担う。 |
3つの考え方は、かかりつけ薬剤師が担うべき機能と密接に結びついています。
「立地から機能へ」は24時間対応・在宅対応等の機能発揮を、「対物業務から対人業務へ」は服薬指導や処方提案といった対人業務の充実を求めるものです。「バラバラから一つへ」は、服薬情報の一元的把握と多職種連携の両方につながる考え方です。
これらを実践する薬剤師を評価するため、2016年度診療報酬改定でかかりつけ薬剤師指導料が創設されました。
患者のための薬局ビジョン|厚生労働省
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政策評価の指標(KPI)
同ビジョンでは、医薬分業の質を評価するKPI(重要業績評価指標)が設定されました。具体的には、次の5項目が挙げられています。
- かかりつけ薬剤師・薬局の数
- 疑義照会の実施率、件数
- 24時間対応、在宅対応(医療保険・介護保険)の実施率、件数
- 残薬解消の実施率、件数
- 後発医薬品の使用割合への影響
従来は処方箋受取率という単一の指標で評価されてきましたが、同ビジョンは量から質への転換を見据えたKPIでの評価を示しました。加えて診療報酬についても、改定の都度、中医協の診療報酬改定結果検証部会で効果を検証していくとされています。
かかりつけ薬剤師の3つの機能
かかりつけ薬剤師・薬局が持つべき機能として、患者のための薬局ビジョンでは3つが示されています。
- 服薬情報の一元的・継続的な把握とそれに基づく薬学的管理・指導
- 24時間対応・在宅対応
- かかりつけ医を始めとした医療機関等との連携強化
それぞれ詳しく解説します。
服薬情報の一元的・継続的な把握
患者が使用する薬の情報をまとめて把握し続ける機能です。かかりつけ薬剤師は、主治医と連携しながら、患者への丁寧な聞き取りを行います。
さらに、お薬手帳の内容の把握等を通じて患者がかかっているすべての医療機関を把握します。要指導医薬品や一般用医薬品を含めた服薬情報も、一元的・継続的に把握する必要があります。
こうした取り組みにより、複数の診療科を受診した場合でも多剤・重複投薬や相互作用の防止につながります。
なお、患者が複数のお薬手帳を所持している場合、薬剤師は一冊化・集約化に努めることが求められます。かかりつけ薬剤師・薬局を選んでいない患者に対しては、その意義や役割、適切な選び方を説明することも必要です。
24時間対応・在宅対応
相談には、患者の状態を把握しているかかりつけ薬剤師が対応するのが原則です。夜間・休日であっても電話相談等に応じ、かかりつけ薬剤師が対応できない時間帯は、情報共有した薬剤師が代わって対応します。
症状悪化時など、在宅患者への緊急の調剤にも対応する必要があります。薬局単独での対応が難しい場合は、地区の薬剤師会が主導し近隣薬局と連携することも想定されています。
一方で、体制整備の状況には課題もあります。厚生労働省が2023年11月にまとめた調査では、自薬局単独で24時間対応が可能な体制を整えている薬局は58.7%でした。
患者のための薬局ビジョン|厚生労働省
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かかりつけ医を始めとした医療機関等との連携強化
かかりつけ薬剤師は医師の処方内容をチェックし、疑義がある場合は処方医へ疑義照会を行います。患者とのやりとりで得た情報をもとに、処方提案を実施することも必要です。
調剤後も患者の状態を継続的に把握します。服薬情報や副作用等について処方医へフィードバックしたり、残薬管理や処方変更の提案を行ったりする役割も担うわけです。
このほか、地域住民からの健康相談への対応も求められます。必要に応じて医療機関への受診勧奨や健診の受診勧奨を行うことも重要です。
2026年度改定で点数・算定要件はどう変わった?
2026年度診療報酬改定でかかりつけ薬剤師指導料と包括管理料が廃止され、服薬管理指導料に統合されました(2026年6月1日施行)。
今回の改定の背景には、面分業が進んでいない実態があります。かかりつけ薬剤師指導料の算定割合は一桁台にとどまり、処方箋集中率はビジョン策定時より上昇していました。
また、厚生労働省保険局医療課の清原宏眞薬剤管理官は、薬局が立地に根ざした構造から脱却することが今回の改定のメッセージだと説明しています。
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2026年度改定前後の点数比較
改定前後で、かかりつけ薬剤師に関する点数体系は次のように変わりました。
| 区分 | 改定前 | 改定後 |
|---|---|---|
| かかりつけ薬剤師指導料 | 76点 | 廃止 |
| かかりつけ薬剤師包括管理料 | 291点 | 廃止 |
| 服薬管理指導料1のイ(かかりつけ薬剤師が行った場合) | ― | 45点 |
| 服薬管理指導料2のイ(かかりつけ薬剤師が行った場合) | ― | 59点 |
※服薬管理指導料の点数(45点・59点)は改定前後で変更なく、かかりつけ薬剤師が行った場合を「イ」として区分する形に見直されました。
服薬管理指導料1のイは、原則3か月以内に再度処方箋を持参し、お薬手帳を提示した患者が対象です。
一方、3か月を超えて再度処方箋を持参した患者や、3か月以内でもお薬手帳を提示しない患者にかかりつけ薬剤師が指導を行った場合は、服薬管理指導料2のイとして59点を算定します。
2026年5月31日時点でかかりつけ薬剤師指導料等の届出を行っていた保険薬局を対象に、経過措置も設けられました。2026年11月30日までの間に限り、施設基準の一部要件を満たすものとみなされます。
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かかりつけ薬剤師の算定要件における緩和内容
かかりつけ薬剤師として指導等を行う保険薬剤師の要件は、一部が緩和されました。薬剤師個人に求められる要件は次のとおりです。
- 施設基準の届出時点で、保険薬剤師として3年以上の保険薬局勤務経験がある
- 当該保険薬局に週31時間以上勤務している
- 施設基準の届出時点で、当該保険薬局に継続して6か月以上在籍している
- 薬剤師認定制度認証機構が認証している研修認定制度等の研修認定を取得している
- 医療に係る地域活動の取組に参画している
勤務時間は従来の「週32時間以上」から、在籍期間は「継続して1年以上」から緩和されました。育児・介護休業等による短縮時は、週24時間以上かつ週4日以上でも要件を満たします。
薬局側には、常勤薬剤師の平均在籍期間が1年以上であること、または管理薬剤師が3年以上継続して在籍していることのいずれかが求められます。また、プライバシーに配慮した独立カウンターの設置も必要です。
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新設加算とポリファーマシー対応の強化
かかりつけ薬剤師指導料及び包括管理料の廃止にともない、実施した業務を評価する加算が新設されました。ポリファーマシー対策に関する評価も大幅に見直されています。
かかりつけ薬剤師フォローアップ加算・訪問加算
2026年度の調剤報酬改定で新設された2つの加算は、次のとおりです。
| 加算名 | 点数 | 算定回数 |
|---|---|---|
| かかりつけ薬剤師フォローアップ加算 | 50点 | 3か月に1回 |
| かかりつけ薬剤師訪問加算 | 230点 | 6か月に1回 |
フォローアップ加算は、服薬管理指導料1のイまたは2のイの算定患者のうち、直近6か月以内に外来服薬支援料1等を算定した患者が対象です。かかりつけ薬剤師が電話等で服薬状況や残薬状況を継続確認し、必要な指導を行った場合に算定できます。ただし、フォローアップにより残薬等の問題が解消されている場合は算定できません。
訪問加算は、患者の自宅を訪問して残薬整理や服薬管理指導を行い、結果を医療機関へ情報提供した場合の評価です。
どちらの加算も調剤時にかかりつけ薬剤師が不在の場合には、薬剤服用歴等に必要事項を記載すれば算定できます。
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服用薬剤調整支援料2の見直し
服用薬剤調整支援料2は1,000点へ引き上げられました。施行日は2027年6月1日で、他の改定項目より1年遅れの運用です。
対象は、複数の医療機関から6種類以上の内服薬が処方されている患者です。要件は必要な研修を受けたかかりつけ薬剤師による薬物療法の適正化支援で、同一患者につき6か月に1回に限り、かかりつけ薬剤師1人につき月4回まで算定できます。
留意事項通知では、実施事項として次の項目が挙げられました。
- 患者または家族等からの主観的情報の聴取
- 検査値等の客観的情報の収集
- 服薬支援に必要な生活状況・意向の聴取
- 治療効果および有害事象の評価
- 薬剤関連問題の特定・整理
- 調整後の観察計画・対応案の立案
算定できるのは日本老年薬学会の老年薬学服薬総合評価研修会を修了したかかりつけ薬剤師等に限られ、ハードルの高さが指摘されています。1,000点算定時の患者負担は、3割負担で3,000円です。
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同意書は不要に、お薬手帳への記載に変更
2026年度改定により、患者の署名がある同意書は不要となりました。ただし、算定する薬剤師本人が業務内容や意義を説明した上で同意を得るという手続き自体は、引き続き必要です。
改定後は、お薬手帳を活用する方式に変更されています。具体的な手順は次のとおりです。
- 患者または家族等から同意を取得する
- お薬手帳の患者情報(氏名・アレルギー歴・既往歴・利用薬局等)や薬剤師氏名のそばに「かかりつけ」と記入する
- 当該ページの写しを保険薬局で保管する
- 薬剤服用歴等にその旨を記載する
同意書を保存していても、原則としてお薬手帳への記入は省略できません。かかりつけ薬剤師の離職や変更の際は、お薬手帳へ上書きし、変更の旨と日付を薬剤服用歴に明記します。電子版お薬手帳の場合は、画像データでの保管も認められています。
なお、2026年5月31日以前に取得した同意は引き続き有効ですが、お薬手帳への記入が未実施の場合は対応が必要です。
令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】|厚生労働省
疑義解釈資料の送付について(その2)|厚生労働省
別添3 調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省
かかりつけ薬剤師は「いらない」のか
「かかりつけ薬剤師はいらないのではないか」という議論が起きています。算定割合は一桁台にとどまり、患者団体からは「かかりつけ薬剤師指導料は失敗」との厳しい声が上がりました。制度が目指す患者側のメリットと、現場の課題の両面を整理します。
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患者から見た、かかりつけ薬剤師のメリット
厚生労働省は、患者がかかりつけ薬剤師を持つことで、次のような医薬分業のメリットを享受できるとしています。
- 複数診療科を受診した場合でも、多剤・重複投薬等や相互作用が防止される
- 薬の副作用や期待される効果の継続的な確認を受けられる
- 在宅で療養する場合も、行き届いた薬学的管理が受けられる
- 過去の服薬情報等が分かる薬剤師が相談に乗ってくれる
- 薬について不安なことがあれば、いつでも電話等で相談できる
- 丁寧な説明により薬への理解が深まり、飲み忘れや飲み残しが防止される
こうしたメリットを享受するには、日頃から患者と継続的に関わる薬剤師の存在が重要です。
懸念される、かかりつけ薬剤師のデメリット
一方で、運用実態には課題も指摘されています。中医協では、算定回数のノルマ化や定型的な同意取得の打診が問題視され、支払側委員は実施業務の実績評価への転換を求めました。
厚生労働省が2021年に公表した調査では、かかりつけ薬剤師以外が対応する場合があると回答した薬局が61.8%を占めました。また、健康保険組合連合会が2022年に一般国民3,000人へ行った調査では、かかりつけ薬剤師の知名度は4割未満にとどまっています。
こうした実態が、2026年度改定における評価見直しの背景となりました。
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まとめ
2026年度改定により、かかりつけ薬剤師指導料・包括管理料は廃止されました。服薬管理指導料へ統合され、実績重視の評価へと転換しています。
点数体系や算定要件、同意手続きも大きく見直されました。フォローアップ加算・訪問加算・服用薬剤調整支援料2などの新設・拡充も行われています。
制度の趣旨と改定内容、現場の実態を正しく理解した上で、日々の実務に反映していくことが求められます。
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