来局者には接遇の意識
「“ノミュニケーション”で距離感を縮めてきた。お酒を飲んで人と仲良くなるのは得意な方かもしれません」――。昨年から所沢市薬剤師会会長を務める田邉浩一郎さん。所沢駅から徒歩3分の場所にある田辺薬局は、今年で66年目を迎える老舗の薬局だ。田邉さんは2代目の主となる。
昔はスキーが趣味だったが、この10年で所沢市内で飲む機会が増え、お酒が大好き。「1人飲みにもハマっているんです」と明かしてくれた。
会長として市長や医師会、歯科医師会の役員と酒を酌み交わす機会も多くなり、地域での人脈が広がった。
所沢市は医師会、歯科医師会、柔道整復師会、鍼灸師会、獣医師会を加えた6師会を構成するなど全国的にも珍しい横のつながりもある。田邉さんは、「日頃のノミュニケーションが重要ですね」と強調する。
患者との夜の付き合いを聞くと、「患者さんと飲むことはないですが、地域の人たちと飲んだ後に患者さんになってくれることは良くあります」と言う。
もともと、家業の薬局を継ぐつもりはあまりなかったそうだが、高校生の頃に「薬剤師はつぶしが聞くから薬学部に行け」との父の言葉に従い、東京薬科大学薬学部に入学。しかし、入学直後にその父が急逝する不幸に見舞われた。
薬剤師ではない母や薬局スタッフ、日本薬局協励会のメンバーである薬剤師、地域の人たちに支えられながら大学を卒業した。卒業後は当時の協励会会長が経営していた新宿の薬局で2年間薬剤師として経験を積み、それ以降は田辺薬局の大黒柱だ。
田邉さんが考えるかかりつけ薬局、薬剤師像は「薬局に来ると患者さんが元気になる。スタッフも患者さんから元気をもらえる場」という。だからこそ、投薬が終わっても患者のそばで対応し、患者が薬局を出る際は門口まで見送る接遇を心がけている。患者との会話は薬歴に漏らさず記載し、次回の対応に生かす。薬局スタッフにもこうした接遇の意識を持つよう伝えている。
薬局が医薬品提供施設として期待される中、医薬品供給不足は大きな問題だ。田辺薬局では近場の薬局などに電話し、とりあえず探すことを徹底している。
田邉さんは「薬を分けられなかった場合でも、患者さんには『○○薬局にその薬がありますので、その店にFAXしておきますから』と紹介する」と話し、患者をそのまま帰すことはしない。
所沢市は、埼玉県内ではさいたま市に次ぐ規模で施行時特例市に指定されている。電車で新宿から30分、池袋から20分のアクセスの良さが人気だ。防衛医科大学校病院など国立病院が三つもあるなど医療環境も整う。
所沢市薬剤師会は所沢市と医師会、明治薬科大学と4者共同で服薬適正化事業を展開する。田邉さんも「役員の皆さんがよく動いてくれる」と薬剤師会のメンバーを自慢する。
埼玉県薬剤師会の斉藤祐次会長も所沢市出身。田邉さんは斉藤会長の先輩として「学術大会を盛り上げたい」と誓う。もちろん、会の成功後には美酒を味わう予定だ。
目次
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】患者のために医師相手に臆せず意見 さいたま市薬剤師会・野田政充さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】他職種と連携し患者支える 上福岡・大井薬剤師会・斉藤亮太さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】美味い町中華を出す薬局の薬剤師 越谷市薬剤師会・奥津剛さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】ノミュニケーションで距離感縮める 所沢市薬剤師会・田邉浩一郎さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】製薬企業研究者から薬剤師に 羽生市薬剤師会・安野浩崇さん