患者から相談される薬剤師に
「薬剤師っぽくない薬剤師と患者さんからよく言われます。フランクな感じなので話しやすいのかもしれません」――。春日部駅に近いむすぶ薬局代表取締役の森田元さんは、春日部市薬剤師会の理事も務める。
「薬剤師は真面目で人見知りの方が多い印象があります。私は基本的に人と話すのが好きな性格で、知り合いを増やしたい性分ですね」。公認スポーツファーマシスト、認定実務実習指導薬剤師、県薬剤師会の災害対策委員会のメンバーを担うなど多彩な顔を持つ。小児薬物療法認定薬剤師も取得していたマルチな薬剤師だ。
もともと、薬剤師になりたかったわけではない。草加市出身で小学校の頃の夢は草加市長になること。「市長になって日本で一番汚いと言われている綾瀬川をきれいにする」。大学は環境学部を目指した。
ただ、環境学部があるのは国公立大学のみと狭き門で現役は受験に失敗し、浪人生活を強いられた。翌年の再チャレンジとなる受験の約1カ月前に、幼なじみが大学薬学部に合格したとの知らせを聞いた。
「親からは『薬学部に行け。環境衛生学も学べるだろう』と薦められ、自分も薬学部を受験したら合格しました。志望していた国公立大学の環境学部も合格したのですが、既に入学金を払い込んでいたので」。急転直下で薬学部に入学することとなった。
大学卒業後は、実習先だった東京都足立区の薬局で5年間働いた。製薬企業の開発職に興味が湧き、大分大学医学部付属病院で抗癌剤の治験業務を経験したが、中途採用の希望は叶わなかった。
以前、働いていた調剤薬局の上司の紹介で薬局に再就職した。周囲の支えもあり、2020年7月に「むすぶ薬局」を開局した。
むすぶ薬局の由来は「私は人が好きで、会社名は人と人を結ぶということで株式会社『結』とした。長男は『結人』(ゆいと)、長女は『結』(ゆい)と子供の名前にも使っている」という。
開局した時期は、新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が実施されていた頃だ。最初は患者が一桁という厳しい状況に直面した。近隣のクリニックが1日に発行する処方箋が約90枚のうち、およそ3分の1は応需できる計算に大きな狂いが生じたが、幸いにも高齢者施設の服薬管理を担うことができ、苦境を乗り切った。独立した今は「自分の裁量で働けているのが楽しい」と話す。
ジェネラリスト薬剤師を目指す。病院に行く前に「どうしたらいい?」と森田さんに電話をくれる患者が複数人いる。「『あなたに私の健康管理、薬物治療を任せるよ』と言ってくれるのがありがたい。私が考えるかかりつけ薬剤師、薬局は、困ったことがあれば相談先として、真っ先に頭に浮かぶ存在、北海道の薬剤師である長塚健太先生が提唱する“かかる前薬局”ですね」
一方、春日部市薬剤師会は災害対策に積極的に取り組んでおり、4師会合同で毎年災害訓練を実施。東京都の江戸川区薬剤師会と県を跨いだ連携もあり、執行部も積極的に若返りも図っている。
5年後の自分については、「薬局は複数店舗を構え、春日部薬剤師会の要職に就き、大学教員として学生を教える立場になり、埼玉県薬剤師会の理事を担っている」との姿をイメージする。幼少期に思い描いていた草加市長になるとの目標についても、「将来の構想としてあります。まずは市議会議員を目指したい」と公言する。
休日が年末年始しかないなど忙しい毎日を過ごす。「サッカー、ランニング、バレーボールは趣味として時間を費やせるようにしたいですね」。オフタイムも充実させたい考えだ。
目次
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】患者のために医師相手に臆せず意見 さいたま市薬剤師会・野田政充さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】他職種と連携し患者支える 上福岡・大井薬剤師会・斉藤亮太さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】美味い町中華を出す薬局の薬剤師 越谷市薬剤師会・奥津剛さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】ノミュニケーションで距離感縮める 所沢市薬剤師会・田邉浩一郎さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】製薬企業研究者から薬剤師に 羽生市薬剤師会・安野浩崇さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】地域住民ファーストの薬剤師 朝霞地区薬剤師会・大八木実さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】薬局をふれあいからつながりの場に 飯能地区薬剤師会・池田里江子さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】険しい坂も駆け上がる薬剤師 熊谷薬剤師会・比留間頼栄さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】キッチンカーで身体にいい食事提供 秩父郡市薬剤師会・町田一美さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】サッカーでインターハイ出場した薬剤師 坂戸鶴ヶ島市薬剤師会・髙尾慶太さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】自律神経免疫療法で患者に提案 鴻巣薬剤師会・福島利和さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】人事開発部長として活躍する薬剤師 蓮田市薬剤師会・細野美佐子さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】140年以上続く薬局の薬剤師 深谷市薬剤師会・中里範子さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】神主と薬剤師の両立目指す 本庄市児玉郡薬剤師会・土師哲人さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】チームプレーを重視する薬剤師 狭山市薬剤師会・秋山明美さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】管理薬剤師.comを運営する薬剤師 加須市薬剤師会・寺山直樹さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】“珈琲焙煎士”の一面持つ薬剤師 三郷市薬剤師会・小林真人さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】フットワークは軽い薬剤師 行田市薬剤師会・北爪裕希子さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】患者から親しみを持ってもらえる薬剤師 戸田市薬剤師会・鴨川茉未さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】地元で活躍するルーキー薬剤師 寄居薬剤師会・宇野雅也さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】薬剤師会会長として組織をリード 北本市薬剤師会・長谷川学さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】コロナ禍に“むすぶ薬局”を開局 春日部市薬剤師会・森田元さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】芸術から運動まで幅広くカバー 川越市薬剤師会・須田弘子さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】点ではなく線のように継続した服薬指導を行う薬剤師 上尾伊奈地域薬剤師会・米坂由可里さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】航空関係の高校から薬剤師に 草加市薬剤師会・元吉慧護さん