地域薬会長として地域課題を探索
9月に埼玉県で初めて日本薬剤師会学術大会が開催される。約1万人の参加が見込まれ、盛り上がりが期待される中、本紙は県内の37地区薬剤師会から推薦された地域で活躍する薬剤師を紹介していくことにした。
トップバッターのさいたま市薬剤師会から登場したのは野田政充会長だ。「薬剤師のことが好きな薬剤師」を自負する。
大学時代は化学が好きで製薬企業の開発職を目指した。薬の化合物としての興味はいつしか、同じ薬を投与しても患者への治療効果に個人差が生じる薬物療法の面白さに変わり、薬剤師の仕事を選んだ。
薬局薬剤師であることに強いプライドを持っている。患者をめぐり医師相手にけんかもした。循環器科・泌尿器科・皮膚科と複数診療科から計12剤が処方されていた中に腎機能リスクが高い薬剤が含まれていた。
「この薬でいい」。添付文書に基づき減量させていると主張する医師に、野田さんは「いや、薬剤を変えるべきです」と譲らなかった。医師と薬剤師の意見が対立する中、患者の希望は「野田さんの意見に準じて薬を飲みたい」。薬剤師である野田さんを選んだ。
その結果、服用中の薬剤の一部を薬剤師である野田さんが提案した腎機能リスクが低い薬剤に変更することになった。
野田さんの読みが的中し、患者の腎機能は低下した。腎機能リスクの高い薬剤を変更せずに継続していればより悪化していたかもしれなかった。医師からは「腎機能リスクが低い薬剤に変えて正解だった。ありがとう」と感謝された。
「一番大事なのは患者に興味を持つこと」と野田さん。患者の服装や口数、声の大きさ、話すスピードなど普段の様子と何が違うのか観察する癖をつけてきた。患者の表情や仕草から異変に気づき、子宮体癌の早期発見につなげたこともある。
かかりつけ薬剤師という言葉には「薬が出てからというイメージが強く、そこにプライドを感じない。薬剤師は血液は採らない、手術はできないが、話は聞くことができる医療従事者だと思う。病気になる前の医療のインタフェースとしてのプライドが強い」との意見だ。
現在は市薬剤師会会長の立場で、約132万人の地域住民と向き合う。地区薬剤師会に求められる能力は「地域課題の発見力」と話す。県内で唯一、人口が増加し、今後急速な高齢化に直面するさいたま市。在宅や災害対応、健康増進など様々な課題がある。「薬剤師の畑だけを耕すために薬剤師の能力を使うのではなく、地域の畑を耕すために使わないといけない」と力を込める。
楽天的な性格で海が好き。昔は週末になると千葉沖へとサーフィンに行き、波に乗っていた青年だった。今ではサーフィンの板を釣り竿に持ち替え、戦略を立ててじっと魚を待つ。魚を釣り上げる達成感よりも「釣れないのが楽しい」と言う。「なぜ、釣れないのかの問題を見つける楽しさ、次はリベンジする楽しさがあるじゃないですか」
もちろん、地区薬剤師会会長として地域の課題を見つけることも「楽しいに決まってます」と頼もしく語ってくれた。
目次
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】患者のために医師相手に臆せず意見 さいたま市薬剤師会・野田政充さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】他職種と連携し患者支える 上福岡・大井薬剤師会・斉藤亮太さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】美味い町中華を出す薬局の薬剤師 越谷市薬剤師会・奥津剛さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】ノミュニケーションで距離感縮める 所沢市薬剤師会・田邉浩一郎さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】製薬企業研究者から薬剤師に 羽生市薬剤師会・安野浩崇さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】地域住民ファーストの薬剤師 朝霞地区薬剤師会・大八木実さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】薬局をふれあいからつながりの場に 飯能地区薬剤師会・池田里江子さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】険しい坂も駆け上がる薬剤師 熊谷薬剤師会・比留間頼栄さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】キッチンカーで身体にいい食事提供 秩父郡市薬剤師会・町田一美さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】サッカーでインターハイ出場した薬剤師 坂戸鶴ヶ島市薬剤師会・髙尾慶太さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】自律神経免疫療法で患者に提案 鴻巣薬剤師会・福島利和さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】人事開発部長として活躍する薬剤師 蓮田市薬剤師会・細野美佐子さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】140年以上続く薬局の薬剤師 深谷市薬剤師会・中里範子さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】神主と薬剤師の両立目指す 本庄市児玉郡薬剤師会・土師哲人さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】チームプレーを重視する薬剤師 狭山市薬剤師会・秋山明美さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】管理薬剤師.comを運営する薬剤師 加須市薬剤師会・寺山直樹さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】“珈琲焙煎士”の一面持つ薬剤師 三郷市薬剤師会・小林真人さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】フットワークは軽い薬剤師 行田市薬剤師会・北爪裕希子さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】患者から親しみを持ってもらえる薬剤師 戸田市薬剤師会・鴨川茉未さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】地元で活躍するルーキー薬剤師 寄居薬剤師会・宇野雅也さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】薬剤師会会長として組織をリード 北本市薬剤師会・長谷川学さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】コロナ禍に“むすぶ薬局”を開局 春日部市薬剤師会・森田元さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】芸術から運動まで幅広くカバー 川越市薬剤師会・須田弘子さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】点ではなく線のように継続した服薬指導を行う薬剤師 上尾伊奈地域薬剤師会・米坂由可里さん
- 【彩の国にいる37人の薬剤師】航空関係の高校から薬剤師に 草加市薬剤師会・元吉慧護さん