前稿までにインドの製薬企業を取り巻く医療・法規制・市場等について紹介させていただいた。ここからはその様なインド企業と海外の、特に日本を含む先進諸国との関係や可能性について触れていきたい。その最初のステップとして、本稿においてはインド企業を他国の企業と比較しての強みと弱みについてできるだけ客観的に述べてみることにする。
一般論としてどの国の企業と比較しても共通して挙げられる強み
- 自国市場が経済成長と共に著しい成長を示しており、またそのポテンシャルが巨大な人口を背景として非常に高い
- その技術力の高さに比して人件費が極端に安い(研究・開発・生産)
他の発展途上国と比較しての強み
- 政情が比較的安定している
- 西欧文化の流入により契約に基づくビジネスを行い易い
- 国際的ビジネス用語である英語が準公用語である
- 高等教育を受けた者だけでも数億人の労働力がある
- 数学的素養が高いためか、科学技術のレベルが高い
特に日本と比較した場合の強み
- 国際的ビジネス展開の土壌が有り各国の規制に対応する順応性を有する
この他にも宗教的特長や多民族国家としての特性等、更に多くの強みを挙げることができると思われるが、既に述べただけでもこれだけの強みを全て持ち合わせた国は他に存在しないのではないだろうか。
お気付きと思うが、ここに述べた強みは医薬品企業特有の物ではなく、インド全般についての話である。医薬品企業はこれらの全てを持ち合わせており、その強みを生かすべくビジネスの展開を図っている。
しかし、当然ながら多くの弱みをも有しており、以下に列挙してみる。
一般的な弱み
- 7億人に及ぶ貧困層を抱えており、貧しい国としてのイメージが強い
- 独立後60年を経過したが、当初の40年近くは社会主義国家としての成長を目指したため自由競争に基づく科学や文化の発展が遅れている
- 特に物流インフラの整備が遅れており、産業の発展を妨げている
日本をパートナーとした時に中国・韓国や東南アジア諸国と比較しての弱み
- 地理的に非常に離れており、人的・物的輸送に時間とコストが掛かる
- インド・アーリア語族であり、アジア圏のイメージが薄い
- 過去に日本との貿易が少ない(国の規模に比して)
特に医薬品企業の弱み
- 研究能力は高いが製品として新薬を開発・上市した経験に乏しい
- 貧困層救済の使命が有り、先進諸国の企業と同じスタンスでビジネスを捉えられない場合がある
- 製剤における輸出入や取引きの事例が少ない
ビジネスを目的にこれらの弱みを見た時、特に地理的な問題及び物流インフラの問題が最も大きな障害であると思われる。一方で、イメージに基づく弱みに関しては、インドという国を正確に理解することで解消されるものが多いのも事実である。
特に医薬品産業は欧米の先進諸国を含めて世界的な供給基地となっている現状があり、それらの国々から見たインドは、日本から見たインドとは大きく異なっていることであろう。
今回は強みと弱みについて主な事象を挙げてみたが、製薬会社としては他にも様々な特徴があり、それらについては今後、稿を重ねる中で具体的に触れていく予定である。
連載 インド薬業事情
- 「インド薬業事情」連載終了
- 第21回 インド製薬会社の収益性
- 第20回 インドの医薬品の品質
- 第19回 インドのAPIビジネス―日本企業の対応
- 第18回 インドの医薬ビジネスサポート業―3 (研究支援)
- 第17回 インドの医薬ビジネスサポート業―2 (受託製造)
- 第16回 インドの医薬ビジネスサポート業―1 (CRO)
- 第15回 インド製薬会社の海外展開
- 第14回 インド製薬会社の強みと弱み
- 第13回 インドの医薬品市場―主要企業と成長
- 第12回 インドの医薬品市場の概要―その特性
- 第11回 インド高裁によるノバルティスの請求棄却に関して [緊急掲載]
- 第10回 インドの医療供給体制
- 第9回 インドの医薬品安全性対策
- 第8回 インド製薬会社のMR
- 第7回 インドの医薬品マーケティング戦略
- 第6回 インドの医薬品流通
- 第5回 インドの薬価
- 第4回 インドでの医薬ビジネスに関する法規制
- 第3回 インドの医薬品と知的財産権
- 第2回 インドの医薬品承認制度
- 執筆者紹介 黒木俊光氏(トレント・ファーマ社長)
- 第1回 物質特許制度の導入とインド企業の新薬開発
- 執筆者紹介 川端一博氏(ザイダスファーマ社長)
- 「インド薬業事情」連載開始!