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【インド薬業事情】第20回 インドの医薬品の品質

2007年10月16日 (火)

 インドの医薬品の品質について、一言で品質が良いとか悪いとか断定してしまうのは的を射ていない。同じインドのメーカーの製品でも、それがどの市場向けに製造されているかが重要な要因となるからである。インド国内の規格は欧米や日本の規格に比べて一般に要求レベルが低い。純度試験やインプロセスコントロールがその代表的な例である。簡単に言ってしまうと、インド国内向けに製造された製品は日本の品質規格には適合しないと考えて良い。

 それではインドで製造される医薬品は日本市場には不向きかと言うとそうではない。何故ならインドでは米国や欧州、南米、アフリカ、東欧、東南アジア、それぞれの市場向けにマルチスタンダードで製造することが一般的だからである。例えばインドから欧米に輸出されている医薬品はインド国内向けとは全く異なった規格で製造されている。ご存知の方も多いと思うが米国のFDAが認可している医薬品工場の数では国外で一番多いのがインドであり、同じく海外からの申請でDMF登録数が一番多いのもインドである。即ち、インドの医薬品メーカーは少なくとも米国向けには十分な品質の製品を製造・供給しているということである。

 それなのに何故インド国内向け製品の品質を高くしないかというと、そこには当然ながらコストの問題がある。例えば欧米の規格に合わせて製造すると、原薬や添加剤の受入れ規格が異なり原材料費が上がる。また品質管理のコストも跳ね上がってしまいこれらが全て価格に反映されることとなり、これはインドの実情にそぐわないことになる。そのため国内向けは国内向け、米国向けは米国向けと異なった規格で製造を行うことになるのである。

 一度それぞれの品質への要求がSOP等に盛り込まれれば、マニュアルが徹底されるインドでは確実にその要求を満たす製品が製造されることになる。(「第17回 インドの医薬ビジネスサポート業―2 (受託製造)」を参照していただきたい。)

 さて、肝心なのは「日本向け」の話であるが、これについてのエビデンスはまだ少ないが、結論から言えば十分に対応可能である。「可能」と書いたのにはわけがある。つまり科学的・技術的には問題なく対応できるが、重要なのは日本特有の品質感覚を理解して製造するかどうかであろう。

 良くある例としては、注射剤のラベルや瓶の傷のトラブルが挙げられる。ラベルが僅かに曲がっている、或いはバイアルの外側に傷がある。これは欧米では通常問題とならないが、日本では受け入れられない。何故なら医薬品としての品質基準は満たしていても商品価値を損ねてしまうからである。また錠剤の黒点クレームへの対応でも、欧米のメーカーの対応は「製造工程で炭化した異物が混入しただけであり人体には無害である。」というような回答がしばしば見受けられるが、日本では有害か無害かの他に工程に異常が有ったか無かったかを問題にするので、単にそれが無害であるというだけでは受け入れられない。(無論、それが正常な工程であるとは考えられないが。)

 今から30年以上も前、欧米の外資系製薬メーカーがそれまでのライセンスによる参入から製品の輸出入の形式に移行を進めた際、非常に多くの品質クレームが発生し、日本で輸入する側はその説明と説得に多大な労力を費やした時期があった。インド企業に限らず、新たに日本市場に参入する企業にとって、この日本特有の品質への要求は大きな壁となっていることに間違いはない。しかし、対応する日本企業もどう説明すれば海外のメーカーにとって理解しやすいかも経験としてわかってきている現在、それを伝えるための労力は昔ほどではないと考えている。

 そうは言ってもこれまで海外から直接輸入を行った経験の少ない企業にとってはインド人との英語での交渉は決して楽なものではないであろう。これらの企業がビジネスとして実際にパートナーとしてのインド企業を選定する際は、最初から日本の品質要求の特殊性を理解しているメーカーを選ぶのが最も簡単で確実である。そして、米国向けでも欧州向けでもない、日本向けの品質規格を供給契約に明記し、後日のトラブルを回避することが医薬メーカーとしての責任を果たすためにも重要である。

 これらの問題点をクリアして正確に日本市場の要求する品質を理解させれば、インド企業は日本市場で通用する高品質の製品を安価で供給し、医療現場も患者も安心してこれを使用することができるであろう。


トレント・ファーマ株式会社
代表取締役社長・黒木俊光

連載 インド薬業事情



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