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【インド薬業事情】第19回 インドのAPIビジネス―日本企業の対応

2007年10月9日 (火)

 インドは、世界有数の原薬(「API」)の製造、供給拠点であることは広く知られており、世界のAPIの約40%はインドが引き受けている。最近の特徴としては、ジェネリック品メーカーだけでなく、新薬メーカー、特に巨大製薬企業がインドからのAPIの調達に積極的に取り組んでいる。エーザイのインドでの工場建設もこの流れの中にあるといえる。

 しかし、日本の製薬会社がインドにAPIの供給を求めることは、過去、多くなかったといえる。その理由としては、国内で高品質なAPIが得られたこと、インド製のAPIの品質に関する不安、交渉の長期化、トラブル(特に品質不安)発生時の解決とそのための時間・労力への恐れ等が挙げられる。

 日本企業がインドでAPIの製造や販売に従事する事例は多くないと思われるので、本稿では、日本の製薬会社がインド企業との間でAPIビジネス(特に購入)を行う際の留意点やポイントを簡単に説明することとする。

 第1番目は、インド製APIの品質に対する不安である。きちっと対応し、日本での顧客を確保・維持している企業はあるが、これまでは、総じてインド企業はこの日本企業の不安を払拭する努力を怠ってきたように思う。このような状況の中で、コスト低減やAPIの供給元の複数化等のためにインド企業との提携を考える場合、何に留意すればよいのか。唯一、かつ最も効果のあるのが詳細な契約書の作成である。

 インド企業は、英国の植民地支配の影響もあり、合意された契約を履行する法意識は定着している。では、なぜ、APIの製造・供給契約(発注書も契約書の一種)があるのに、その履行が確実に行われないのか(品質不良品の供給は、日本人であれは契約違反と考える)、不審に思うであろう。問題は、契約書の内容、中身である。

 インド企業は、契約書に記載のない事項や解釈に幅のある条項では、自由にまた自らの有利に解釈し、行動する性癖がある。これは、欧米の契約社会で一般的にみられることである。たとえば、規格書でAPIの粉末を「白色」と規定した場合、インド人の考える白色のレベルは多々存在する(日本も同じだが)。従って、契約で定められた検査法でパスしたAPIが、日本人の白色の概念とインド人のそれとの違いに起因して、合格品(インド・サイド)が不良品(日本サイド)に変わってしまう。

 インド企業が契約を遵守する観念が高いことを考慮すれば、APIの製造・供給契約書には、規格書(検査基準や方法を含む)を契約に不可欠の文書として添付(商社経由ではなく、製薬会社がその主力品のAPIの製造あるいは供給/売買契約を締結する場合の通常のプラクティスとなっている)することが肝要である。なお、GQPの施行に伴い、APIの製造元との文書での確認が要求されることになった為、過去、文書での明確な合意の欠落から生じたトラブルや不安は、今後、解消に向かうと思われる。

 2番目は、原料等を変更する場合の事前承認、確認プロセスへの不安である。インド企業の現場(工場)は、価格競争へ対応と利益追求のために、常にコスト削減へのプレシャーを受けている。その凄まじい努力は日本の製薬企業も見習ってほしい程だが、そのコスト削減の手段として、時には、製造プロセスや原料・中間体の銘柄・購入先等を変更することがある。勿論、この場合にも製造されたAPIの品質チェックは行われている。しかし、この変更の結果、合意された検査方法では発見できない異物が混入する可能性は否定できない。この為、契約書や注文書において、これらの変更の際の書面での事前承認および変更後の製品の品質規格の相互確認についての規定や明確な合意を欠けば、日本サイドが知らない間に原料等の変更が行われ、これに規格や品質基準に対する認識の不一致が加われば、インドの工場では合格品でも日本では不合格の製品が出荷されるという事態が起きうる。これを避けるには、双方がチェンジ・コントロールを徹底することである。これもGQPの履行により実現可能である。

 3番目は、不良品発生時のインド企業の対応への不安である。多くは対応の遅さに起因するが、その背景にはインド企業の縦割り組織と(民主的)意志決定システムがある。つまり、多くのインドの製薬会社は、欧米の企業と同様に縦割り組織となっており、各組織、部門に権限が移譲されている。このため、多くの部門(例えば、当該APIを製造した工場・部門、品質検査・保証部門、輸送部門、原料調達・保管部門等)がかかわる品質問題、特にインド・サイドで問題となっていないケースでは、各部門・担当者の責任回避の動機と相まって、会議、会議の連続となり、対応や日本サイドへの回答に多くの時間を要するのが通例である。

 これへの対応策は、インド企業のトップへのホットラインを確保すること、および先に述べた契約書にこれらの事態が生じた場合の標準作業手順や対応期限、対策等を明確に定ることである。

 インド企業でのAPIの製造や品質管理、保管、輸送等は、SOP、マニュアル無しには考えられない。しかし、日本向けの特別あつらえのAPI(中間体や製剤も含む)の製造や品質管理・保証を、この出来合いのSOPに準拠させることは問題であろう。従って、日本企業としては、日本での要求水準にあったAPIの製造、品質管理の為のSOPや規格書を作成させ、これを契約文書とすることである。これにより、上記の多くの問題や課題を解決することができるであろう。インド企業が、何時、このことを理解し、対応するか、そこに日本企業とのAPIに関する提携を成功させるカギがある。


ザイダスファーマ株式会社
代表取締役社長・川端一博

連載 インド薬業事情




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