インドの製薬会社の海外展開は、1970年代にAPI・製剤の輸出から始まり、2000年以降、急激に進展した。2000年の輸出額、約10億ドルが2005年には23億4800万ドルにまで伸長した。当初はロシア、CIS諸国が主な輸出先であったが、2000年代には欧米を含む全世界向けの輸出構造に転換するとともに、製剤の輸出が急激(2000年度の6億6300万ドルから2005 年度は20億1300万ドル)に増えている。(なお、インドからの医薬品関連輸出に関し、2005年度48憶1000万ドルとする資料(中間体を含む)もあるが、本稿では「インド貿易統計」HS30.04のデータによっている)ちなみに2005年度のインドからの医薬品の輸出国のベスト10は以下となっている。
順 位 | 国 | 金 額 |
1 | アメリカ | 6億8000万ドル |
2 | ドイツ | 2億3600万ドル |
3 | ロシア | 2億3300万ドル |
4 | 英国 | 1億8200万ドル |
5 | 中国 | 1億6900万ドル |
6 | ブラジル | 1億3600万ドル |
7 | ナイジェリア | 1億1300万ドル |
8 | カナダ | 1億1100万ドル |
9 | 南アフリカ | 9800万ドル |
10 | トルコ | 9400万ドル |
22 | 日本 | 6500万ドル |
以上をみると、日本市場へのインド企業の取り組みがいかに遅れているかが読みとれる。
1995年以降、インド製薬会社、特に大手のターゲットは、最大の市場である米国に向けられ、そのためのANDAやDMFの申請、取得に多くの資源が投入された。その結果、APIに関しては100原薬工場がFDAの承認を取得しており、最も多く外国DMFを取得しているのはインドの企業となっている。(2006年度の4月から12月までの承認件数474件中、166件はインドからである)。
また、製剤に関しても、少なくも4社(Ranbaxcy, Sun Pharma, Zydus Cadila, Orchid)が15品目以上のANDAを米FDAから取得している。
なお、2000年以降、インドの大手製薬企業は、積極的に海外で拠点づくりを始めたが、その主たる戦略は自社の販売子会社の設立および現地のジェネリック会社の買収であった。特に買収に関しては、敵対的なものは行わず、多くは、MNCが新薬主体のビジネス転換に伴う保有するジェネリック医薬品会社の売却や現地企業のオフォアーに応じたものであった。ちなみに、ドイツ・メルク社のジェネリック部門の売却に関し、インド製薬業界からはランバクシーやトレントが入札に参加したが、すくなくとも3000億円以上の投資を要した案件だけに、これらの企業の資金調達力には驚かされる。
インド製薬企業による主な海外M&A
買収会社 | 国 | 被買収会社 | 備考・買収額 |
Lanbaxcy | イタリア | Allen | GSKの子会社 |
スペイン | Mundogen | (同上) | |
ルーマニア | Terapia(No.1 GE会社) | 3億2400万ドル | |
日本 | 日本医薬品工業 | ||
ベルギー | Ethymed | ||
フランス | RPG Aventis | ||
ドイツ | Basics | ||
中国 | JV | ||
Dr. Reddy’s | ドイツ | BetaPharma | 4億8000万Euro |
メキシコ | Roche メキシコ工場 | 5900万ドル | |
UK | BMS Laboratories, Meridian Healthcare | ||
Torrent | ドイツ | Heumann Pharma | ファイザー子会社 |
Nicolas Pilamal | UK | Avecia Pharmaceutical | 950万GBP |
UK | ファイザーMorpeth 事業所 | ||
Wockhardt | UK | Walls, CP Pharma, Pinewood | |
ドイツ | Esparma | ||
Zydus Cadila | ブラジル | Nikko Pharmaceuticals | |
日本 | 日本ユニバーサル | ||
フランス | Alpharma | ||
SUN | アメリカ | Caraco |
インドの製薬企業の国際展開において大きな特徴は、欧米だけでなく、ロシア・CIS諸国、中東、アフリカ、ブラジルといった日本の企業が未だ拠点の設置していない国や地域に現地販売会社や支店等を設置して事業展開をしていることである。
連載 インド薬業事情
- 「インド薬業事情」連載終了
- 第21回 インド製薬会社の収益性
- 第20回 インドの医薬品の品質
- 第19回 インドのAPIビジネス―日本企業の対応
- 第18回 インドの医薬ビジネスサポート業―3 (研究支援)
- 第17回 インドの医薬ビジネスサポート業―2 (受託製造)
- 第16回 インドの医薬ビジネスサポート業―1 (CRO)
- 第15回 インド製薬会社の海外展開
- 第14回 インド製薬会社の強みと弱み
- 第13回 インドの医薬品市場―主要企業と成長
- 第12回 インドの医薬品市場の概要―その特性
- 第11回 インド高裁によるノバルティスの請求棄却に関して [緊急掲載]
- 第10回 インドの医療供給体制
- 第9回 インドの医薬品安全性対策
- 第8回 インド製薬会社のMR
- 第7回 インドの医薬品マーケティング戦略
- 第6回 インドの医薬品流通
- 第5回 インドの薬価
- 第4回 インドでの医薬ビジネスに関する法規制
- 第3回 インドの医薬品と知的財産権
- 第2回 インドの医薬品承認制度
- 執筆者紹介 黒木俊光氏(トレント・ファーマ社長)
- 第1回 物質特許制度の導入とインド企業の新薬開発
- 執筆者紹介 川端一博氏(ザイダスファーマ社長)
- 「インド薬業事情」連載開始!