3000~4000社以上あるといわれているインドの製薬会社のマーケティングを概括的に説明することは困難であり、本稿では、主に国内大手や外資の動きを中心にして説明することとする。あしからずご了承いただきたい。
製品戦略
国内大手は、多くの疾患領域で幅広く製品を揃えるという百貨店方式をとっている。このため500品目以上の製品を有しているのが普通である。その中で、自由に小売価格を設定でき利益率の高い薬価規制の受けない製品(いわゆるノンスケジュール品)に、開発、販売面で注力してきている。最近では、市場競争力のある欧米や日本で申請中や販売されている新製品の取り込みが大きな目標となっている。他方、外資は、基本的には製品のライフサイクルの終盤(特許切れ寸前かその後)にある製品の市場投入が主であるが、幾分、市場への投入の時期が早まっているように思われる。
価格戦略
近年の富裕層・中間所得層の拡大に伴い、ノンスケジュール品について高めの価格設定をし、非価格競争を展開する動きが加速している。これに対し、新規GE品の承認権限が地方政府に移管された後に登場するいわゆる後発GE品は、積極的な価格競争を仕掛けている。
プロモーション戦略
外資、内資を問わず、プロモーション活動の中心にあるのはMRによるコールと情報活動である。薬局で処方箋どおりの処方・販売しかできない状況下では、医師の処方が製品販売の命運を決するため、ブランドの認知(インドのGEは基本的には固有のブランド名を持っている)とそれに基づく処方構築がMRの最大の任務となっている。特に、中央政府の承認を得たいわゆる新規GE品については、早期の普及とそれを支える情報提供が激しくなってきている。最近、エーザイの現地法人は、「アリセプト」について、疾患啓発、患者啓蒙を主体としたインドでは画期的なプロモーションを展開しているが、その成功を祈りたい。
流通戦略
流通インフラの遅れ、回収リスクの高さ、流通業者の多さ、取引金額の小口化と取引回数の多さ、病・医院と流通業者との癒着、複雑な税制等から、外資にとってインドでの流通戦略とその実施は大きな課題である。このため、多くの外資は、国内大手との提携を選択している。因みに、内資は、富裕・中間層の患者の多い大都市の私的病院を主なターゲットとし、中小は、それらの周辺や地方都市、公的病院をターゲットとした流通戦略をとっているといえる。
以上のように、日本とインドの医薬品マーケティングには多くの共通点があり、インドは日本で得られた知識やノーハウを生かせる可能性の高い市場といえる。
連載 インド薬業事情
- 「インド薬業事情」連載終了
- 第21回 インド製薬会社の収益性
- 第20回 インドの医薬品の品質
- 第19回 インドのAPIビジネス―日本企業の対応
- 第18回 インドの医薬ビジネスサポート業―3 (研究支援)
- 第17回 インドの医薬ビジネスサポート業―2 (受託製造)
- 第16回 インドの医薬ビジネスサポート業―1 (CRO)
- 第15回 インド製薬会社の海外展開
- 第14回 インド製薬会社の強みと弱み
- 第13回 インドの医薬品市場―主要企業と成長
- 第12回 インドの医薬品市場の概要―その特性
- 第11回 インド高裁によるノバルティスの請求棄却に関して [緊急掲載]
- 第10回 インドの医療供給体制
- 第9回 インドの医薬品安全性対策
- 第8回 インド製薬会社のMR
- 第7回 インドの医薬品マーケティング戦略
- 第6回 インドの医薬品流通
- 第5回 インドの薬価
- 第4回 インドでの医薬ビジネスに関する法規制
- 第3回 インドの医薬品と知的財産権
- 第2回 インドの医薬品承認制度
- 執筆者紹介 黒木俊光氏(トレント・ファーマ社長)
- 第1回 物質特許制度の導入とインド企業の新薬開発
- 執筆者紹介 川端一博氏(ザイダスファーマ社長)
- 「インド薬業事情」連載開始!