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【インド薬業事情】第17回 インドの医薬ビジネスサポート業―2 (受託製造)

2007年09月25日 (火)

 全世界での医薬品の受託製造の市場規模は約170憶ドル(1兆9,550億円)とみられており、2010年には350億ドルになると予測されている(Indian Business Journal, June 14, 2007)。医薬に関する主な受託製造業者(Lonza, Degussa, Patheo, DSM等)は欧米にいるが、インドでは、Nicholas Piramal, Jubiliant, Shasum Chemical, Cadila Healthcare, Dishman Pharmaceutical 等が挙げられている。以下は、インドでの海外製薬企業との受託のケースである。

会社名 主な顧客
Nicholas Pilamal AMO, Allegran
Cadila Healthcare Altana, Hospira, Bharat Serums
Dishman Pharma Solvay, GSK, AstraZeneca
Shasun Chemicals 海外中堅企業(約18社)
Jubiliant Eli-Lilly, Novertis
Lupin Cyanamid
Wockhardt Ferring

 上記市場の中で、インド企業のシェアはどのくらいあるか正確に予測できないが、着実にそのプレセンスを高めていることは確かである。

 このインドの優位な点は、以下にある。

1)低い製造コスト

 工場や設備等の建設コストは、欧米の40%以下であり、低人件費や運営コストを勘案すると、欧米の30%以下のコストとなっている。さらにAPIの低コストも見込まれる。

 ちなみに、下記のような技能者の給与は、米国の約10分の1(工場のある地域や会社にもよるが、年収で約50万から100万程度)以下である。

2)技能者の高いスキル

 インドでは薬学や工業系の大学を卒業し、訓練を受けた技術者が多く(米国の約6倍)しかも、全国的に存在している。

3)世界水準の工場(施設)

 APIに関しては、米国FDAからDMFを取得している品目の約25~30%はインドの製品である。前述の「インド製薬会社の海外展開」を参照。つまり、FDAの査察に耐えうる施設やSOP、その運営をしていることである。また、製剤についてもFDAの査察をパスする工場・施設も増えている。

4)マニュアル経営の浸透、徹底

 インド製薬企業は、その運営のために、多くの業務をマニュアル化しているが、医薬品の製造に関してはこの手法は最適といえる。勿論、マニュアル・手順書の内容やその順守状況によって結果は大いに異なるが、大手製薬会社(少なくともトップ20位以内)については、そのマニュアルの詳細さとそれ徹底することはよく知られている。

5)知的財産権の尊重への積極的な取り組み

 受託製造に関しては、委託者は、受託者に対し、製品や製造方法、品質管理等に関し、多くの秘密情報やノーハウ等を開示し、提供することが必要になる。従って、委託者側から受託者に対する秘密保持や知的財産の尊重に関する信認・信頼感がなければ、委受託は成立しない。この点に関し、受託製造が事業の柱となっている上記の会社だけでなく、多くのインド製薬会社は、先進国レベルの知的財産や秘密の保持体制をとっているといって過言ではない。勿論、個々の会社によってそのレベルが異なることに注意は必要だが。

 今まで、日本企業はインド企業をAPIやその中間体、製剤の委託製造先として検討する機会はほとんどなかったと思う。しかし、国際展開する製品については、APIの供給元を多元化することは不可欠である。また、特許が失効した場合のジェネリック品への対抗のために、製造コストの低減、特にAPIの引き下げを図ることは肝要である。さらに、具体的な化合物を見出した医薬ベンチャーにとって、前臨床試験や臨床試験に進むための化合物の合成、スケールアップをいかに低コストで行うかという課題が待ち受けている。

 具体的な化合物がある場合、それが開発途上であろうと既に市販状態にあろうと、最も安い方法で製造するルートを見出し、そして製造する能力において、インドに勝る国はないと思っている。したがって、これをいかに活用するか、そこに日本のベンチャーを含む医薬品企業の生きる道の一つが隠されているのではないか?


ザイダスファーマ株式会社
代表取締役社長・川端一博

連載 インド薬業事情



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