インドでの医薬品に関する知的財産権としては、日本と同様に、特許権、意匠権、商標権、著作権が挙げられる。最近では、新薬のデータ保護権が話題になっている。
ニセ医薬品や模倣品に関しては、薬事規制だけでなく商標権や著作権を侵害するものとして刑事事件となる。かっては、模倣品が横行していた時代もあったが、取締りの強化と模倣品の撲滅に向けたキャンペーン等によって減少傾向にあるといわれている。
特許に関しては、2005年改正特許法が様々な点で論議を招いている。その第一は、改正特許法は物質特許を認めたが、特許成立の要件としての「新規性」と「進歩性」に関して厳しい基準を設けているため、例えばノバルティス社の「グリベック」の物質特許(基本特許ではなく、イマチニブの誘導体に関する特許)の出願に関しインド特許庁が「特許性がない」として2006年1月に却下するような事例が発生している。これに対し、ノバルティス社が訴訟を提起したが、この行動に関し、「国境のない医師団」等が反対運動を起こしている。
その2は、TRIPS協定の履行に関連して、1995年改正法で「メールボックス出願」(物質特許制度の施行前に物質特許を出願することーこれの受付がTPIPS協定で義務づけされていた)と「EMR」(最長で5年間の排他的な販売権が与えられること)が導入されたが、改正法では、特許成立以前の侵害行為に関しては、権利者は提訴が出来なくなった。ただ、既に製造・販売している地場企業は、先発メーカーとの間でロイヤルティーの支払いが必要となった。この為、先発メーカー、後発企業ともにどのような交渉をするかが大きな焦点となっている。
尚、メールボックス出願は、日本企業は余り行っていないようであるが、多国籍企業が行った医薬品に関する出願は6989件、内、物質特許は3646件とのことである。
TRIPS協定で定められているデータ保護権に関しては、外国企業の臨床試験データを5年間保護する方向で政府当局が動いているが、具体的な期日は明確になっていない。
これまでは、インドには、先進国で特許が切れたか、切れる寸前の製品を投入するのが通例であったが、以上のような状況はあるが、日本企業も、新製品について、早期のインド市場への投入も視野に入れる時期がきているように思われる。
連載 インド薬業事情
- 「インド薬業事情」連載終了
- 第21回 インド製薬会社の収益性
- 第20回 インドの医薬品の品質
- 第19回 インドのAPIビジネス―日本企業の対応
- 第18回 インドの医薬ビジネスサポート業―3 (研究支援)
- 第17回 インドの医薬ビジネスサポート業―2 (受託製造)
- 第16回 インドの医薬ビジネスサポート業―1 (CRO)
- 第15回 インド製薬会社の海外展開
- 第14回 インド製薬会社の強みと弱み
- 第13回 インドの医薬品市場―主要企業と成長
- 第12回 インドの医薬品市場の概要―その特性
- 第11回 インド高裁によるノバルティスの請求棄却に関して [緊急掲載]
- 第10回 インドの医療供給体制
- 第9回 インドの医薬品安全性対策
- 第8回 インド製薬会社のMR
- 第7回 インドの医薬品マーケティング戦略
- 第6回 インドの医薬品流通
- 第5回 インドの薬価
- 第4回 インドでの医薬ビジネスに関する法規制
- 第3回 インドの医薬品と知的財産権
- 第2回 インドの医薬品承認制度
- 執筆者紹介 黒木俊光氏(トレント・ファーマ社長)
- 第1回 物質特許制度の導入とインド企業の新薬開発
- 執筆者紹介 川端一博氏(ザイダスファーマ社長)
- 「インド薬業事情」連載開始!