インドでの先進国に倣った医薬品についての安全性対策は、2005年の物質特許の導入を控え、今後インドでの新薬の製造販売が増えることからADR情報入手システムの必要性が認識されて後に始まったといえる。2004年3月、国家薬事監視委員会(National Pharmacovigiliance Advisory Committee、NPAC)が設置され、同時に国家薬事監視センター(CDSCO(HQ))がスタートした。
インドの安全性対策に関しては、WHOの「安全性モニター・ガイドライン」をベースとして制定されたNational Pharmacovigiliance Protocol(NPP)の中に、薬事監視に関する基本政策が述べられている。
この政策は、国家医薬品基準管理機構(Central Drug Standard Control Organization, CDSC)が全体統括を行い、国家薬事監視センターが以下の役割を行うことになっている。
1.ADRのモニター、レビュー、評価、その結果のWHOへの報告
2.企業から提出された定期完全性報告(PSUR)の評価
注:新規成分を有する医薬品(新薬)の製造元は上市後最初の2年間は、6ヶ月ごとにPSURを提出する義務がある。
3.関係者に対する安全性情報の提供、啓発
4.その他
なお、安全性対策の狙いの一つは、ADR情報を薬事監視機関に的確に提供することであるが、そのために、以下のステップが取られている。
1)ステップ1 ADR関係情報を収集する機関をインド全土で指定
2)ステップ2 調和の取れた対応、理解、業務の標準化を図るための訓練と調整
注:現在、National Pharmacovigiliance Center(1)、Zonal Center(2)、Regional Center(6) およびPeripheral Center(24)がある。()は各組織の組織数。
インドの制度でユニークだと思えるのは、ADRの報告は、医師だけでなく、看護師、薬剤師等のすべての医療従事者に求めていることである。
医薬品の安全対策は、単にADR報告やモニター制度の充実等によって確保できるものでなく、製造上・流通上の品質確保、企業等による安全性情報の提供等を不可欠とする。
現在のインドの安全性対策は、まだまだ製造上の品質保証・確保に精一杯であり、このNPPも2004年以降インドで新たに承認された新薬(先発メーカーの感覚ではジェネリック品であるが)についてはそれなりに適応されているが、他の製品については十分な効果を発揮しているとは思われない。しかし、確実に日本や欧米のレベルに向かいつつあるのがインドの現状である。
連載 インド薬業事情
- 「インド薬業事情」連載終了
- 第21回 インド製薬会社の収益性
- 第20回 インドの医薬品の品質
- 第19回 インドのAPIビジネス―日本企業の対応
- 第18回 インドの医薬ビジネスサポート業―3 (研究支援)
- 第17回 インドの医薬ビジネスサポート業―2 (受託製造)
- 第16回 インドの医薬ビジネスサポート業―1 (CRO)
- 第15回 インド製薬会社の海外展開
- 第14回 インド製薬会社の強みと弱み
- 第13回 インドの医薬品市場―主要企業と成長
- 第12回 インドの医薬品市場の概要―その特性
- 第11回 インド高裁によるノバルティスの請求棄却に関して [緊急掲載]
- 第10回 インドの医療供給体制
- 第9回 インドの医薬品安全性対策
- 第8回 インド製薬会社のMR
- 第7回 インドの医薬品マーケティング戦略
- 第6回 インドの医薬品流通
- 第5回 インドの薬価
- 第4回 インドでの医薬ビジネスに関する法規制
- 第3回 インドの医薬品と知的財産権
- 第2回 インドの医薬品承認制度
- 執筆者紹介 黒木俊光氏(トレント・ファーマ社長)
- 第1回 物質特許制度の導入とインド企業の新薬開発
- 執筆者紹介 川端一博氏(ザイダスファーマ社長)
- 「インド薬業事情」連載開始!