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坂本美佐のボストン便り No.30「Give me a hug」

2006年8月17日 (木)

キングスチャペルは1688年にボストンで初めて建てられた英国式教会で、教会にしては珍しく塔がないのが特徴です。

キングスチャペルは1688年にボストンで初めて建てられた英国式教会で、教会にしては珍しく塔がないのが特徴です。

 洋画などでは、お互いに軽く抱き合う「Hug,ハグ」というしぐさを見かけることがあるかと思いますが、実際にこちらでは日常的に目にします。久しぶりに会ったとき、嬉しいとき、感動したとき、慰めるとき、プレゼントをもらってそのお礼の気持ちを伝えるときなど、感情を相手に伝えるときによくハグをします。

 ところが私は、何年経ってもこのハグに慣れることができません。普通ならハグをする状況や、相手がハグをしてきそうな時でも、「日本人にはその習慣がないので、できません」と断っていました。文化の違いからか、ハグという行為をただのあいさつやジェスチャーとは思えず、その本当の意味を理解できなかったからだと思います。

 そんな私にもハグを理解できそうなことがありました。それはあまりに仕事が忙しく、恥ずかしながら精神的に余裕のない時に訪れました。その日は夏期休暇等でスタッフが足りず、休憩時間を取る間もなく職場は殺気だったような状況だったこともあり、普段では笑って軽く流せる冗談を、冗談と受け取れず、同僚と険悪なムードとなってしまったことがきっかけでした。

 業務が少し落ち着き出した午後、デリバリーの人が輸血部受付にやってきて、花瓶にさされた花が私宛に届きました。そこにはカードも添えられ「I’m so sorry」と送り主名が書かれていました。花はその同僚が昼食時間に、病院内の花屋に行って注文したものでした。

 同僚が昼休みから戻ってきた時、「ありがとう」というのも変だし、照れもあるし、何と言えばいいのか戸惑っていた私の口から不意に出た言葉が、「Give me a hug」(ハグをしよう)で、自分でも驚いてしまいました。

 ハグの後には、同僚の目から涙がこぼれ、「決してハグをしないMisaとのハグが、私の胸のつかえを消した。そして、“Give me a hug”の一言であなたの気持ちが伝わった」と言ってくれ、私の目からも涙がこぼれ、2人で泣いてしまいました。

 確かに、ハグをした時に私の胸のつかえがスーっとなくなったのも事実でした。その時に初めて、ハグがただのジェスチャーでなく、言葉では伝えきれない気持ちを伝え合う、お互いに分かり合う行為なのかもしれないと、少しだけ理解できた気がしました。

 同僚たちの誕生日や記念日に、ご主人や友人から、職場に花が届けられることがありますが、ほとんどの場合に花は花瓶付きでプレゼントされます。受け取った花はそのまま置くことができるので、気のきいた贈り方であることも実感しました。ただ、持って帰る際はちょっと面倒でしたが……。

 異国の文化に慣れることはできても、理解することはなかなか難しいです。今回は、あまりにも私的な内容なので書いていいのか悩みましたが、ハグという文化を少しでも理解できた出来事でしたので、書かせていただきました。


 Medical Academy NEWSで好評連載中「坂本美佐のボストン便り」は、マサチューセッツ総合病院の臨床検査技師である坂本美佐さんからの「お便り」です。病院での仕事はもちろん、“フェンウェイ球場で起こるイチローへの大ブーイング”など、硬軟おりまぜた幅広い話題で楽しめますのでご覧ください。

坂本美佐氏 1988年藤田保健衛生大学卒。藤田保健衛生大学病院、愛知県赤十字血液センターなどで輸血検査に携わり、現マサチューセッツ総合病院輸血部。

連載 坂本美佐のボストン便り




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