マサチューセッツ総合病院輸血部
現在私はアメリカ・マサチューセッツ州・ボストン市にある、マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital, MGH)の輸血部に臨床検査技師として勤務しております。生活習慣の違いに加えて検査システムも異なることなどで戸惑うことがありながらも、充実した日々を過ごしております。
今回このような執筆の機会をいただきましたので、こちらでの生活や検査について、順次紹介させていただきたいと思います。報告させていただくのは私の個人的経験に基づくことで、学術的な意味合いは薄いかも知れませんが、お目休めにでもしていただければ幸いです。今回は最初の報告ですので、自己紹介を兼ねてMGH所属までの経緯をお話しさせていただきます。
それは1997年秋のことでした。当時私は愛知県にある藤田保健衛生大学病院の輸血部に勤務しておりました。同大学の助手として研究職に従事していた臨床検査技師の主人が「来年の4月からハーバード大学に留学するよ」と言い出すのです。主人が応募していたことは知っていましたが、受け入れられるとは思っていませんでしたので、私は真剣に自分のことなど考えてもいませんでした。さてどうしよう?主人と渡米するためには私は退職しか選択肢がありません。当時は愛知県技師会の輸血班員も務めさせていただくなど、輸血検査に関して興味が深く、これらを無にしてしまうことも懸念の一つでした。
しかし、いくら今の仕事が面白いからと言って一人日本に残って別居と言うのもなんだかな?と言う感じで、乙女心は大いに揺れておりました。主人の話をよく聞いてみると、ハーバード大学所属でも研究はその教育病院の一つである、MGHで行うと言うではありませんか。
MGHと言えば輸血部が充実していると言う話を耳にしたことがあり、せめて見学だけでもさせてもらえたらと、ダメで元々の気持ちで輸血部長であるDr. Stowellに手紙を書いてみたのが始まりでした。
何度かの手紙やFAXのやり取りの後、学士を有していることと奨学金を自分で用意して来ることを条件に受け入れてもらえることになったのです。学士は有していましたので、母校から英文での証明書を発行してもらい用意できましたが、奨学金には困りました。
既に1998年1月に入っており、新年度(1998年)給付の奨学金申請はほとんど受け付けておりません。それに加え、臨床検査技師も応募できる奨学金は皆無に等しかったので万事休すと諦めかけましたが、主人がこんな財団があるよと、日米医学医療交流財団(JANAMEF)のパンフレットを持ってきてくれました。
幸運なことに締め切りは1月下旬だったので、慌てて申請書を書きましたがそれは全て英語で記載しなければならず、書き上げるのも一苦労だった記憶があります。幸いにも書類審査は通りましたが、今度は東京まで行って英語での面接試験が3月にありました。
英語は今でも得意ではありませんが当時はもっと悲惨で、面接終了後には「あっこれはダメだな」と落ち込んで名古屋までの新幹線が長かったこと、長かったこと。それでも臨床検査技師としては始めての応募者であったと言う珍しさか、奨学生(JANAMEF Fellow)に選考していただきMGHへ所属することが可能となりました。
2000年3月までMGH輸血部に所属し、最初のボストン生活は一区切りつきました。その後しばらく休養後に愛知県赤十字血液センターで臨床検査技師として勤務しておりました。血液センターでの勤務も私にはよい勉強になりましたが、心の隅には病院でもう一度働いてみたいとの気持ちがうずくまっておりました。
帰国後もMGH時代の友人や上司からは、冗談とも本気とも取れる感じでMGHにてもう一度仕事をしない?と時折連絡があり、そう言ってもらえるだけで嬉しかったのですが、帰国して2年以上経ってもMGHでの勤務経験が忘れられず、結局2003年4月からMGHに戻る予定で、血液センターを退職しました。
今回の所属に際してはMGHでH1Bと呼ばれる就労ビザや弁護士の手配をしてくれたのですが、移民局での事務手続きになんと半年以上もかかり再渡米は11月になり現在に至っている次第です。
次回からは前回のボストン滞在時のことも含め、こちらの様子をお伝えさせていただきます。
Medical Academy NEWSで好評連載中「坂本美佐のボストン便り」は、マサチューセッツ総合病院の臨床検査技師である坂本美佐さんからの「お便り」です。病院での仕事はもちろん、“フェンウェイ球場で起こるイチローへの大ブーイング”など、硬軟おりまぜた幅広い話題で楽しめますのでご覧ください。
坂本美佐氏 1988年藤田保健衛生大学卒。藤田保健衛生大学病院、愛知県赤十字血液センターなどで輸血検査に携わり、現マサチューセッツ総合病院輸血部。
連載 坂本美佐のボストン便り
- No.42「最終回」
- No.41「手術しました」
- No.40「やっぱり黄色」
- No.39「州民皆保険制度」
- No.38「患者となって」
- No.37「カードがいっぱい」
- No.36「不思議の国の……」
- No.35「両刃の剣」
- No.34「サンクスギビングデー」
- No.33「カーシェアリング」
- No.32「いつから新年度?」
- No.31「病院に学習室?」
- No.30「Give me a hug」
- No.29「レクチャー」
- No.28「ナンタケット」
- No.27「Lab Week」
- No.26「笑う門には……」
- No.25「働きざかり」
- No.24「ピアノマン」
- No.23「パーティー」
- No.22「予期せぬこと」
- No.21「秋の風物詩」
- No.20「受診するのも大変」
- No.19「MOVIN’ OUT」
- No.18「病院にベルマン」
- No.17「The Fourth of July」
- No.16「テスト?」
- No.15「Blood Donor Center」
- No.14「サマータイム」
- No.13「文化の違い?」
- No.12「難しいタイミング」
- No.11「勤務通信簿!」
- No.10「査察!」
- No.9「秋なのに熱いボストン」
- No.8「近そうで遠い」
- No.7「Early bird」
- No.6「日本ブーム?」
- No.5「VACATION!」
- No.4「MGHのサービス」
- No.3「ご近所様は?」
- No.2「冬のあとには」
- No.1「はじまりはいつも……」