American Association of Blood Banks(AABB)の査察が初秋にありました。査察前日にはSupervisorやOfficerが書類やStandard Operation Procedure(SOP:標準作業手順書)を準備しており、Special TechnologistのKentから、質問はMisaも答えてくれるよね?と笑いながら言われたので、「そんな冗談でしょう?もし、ホントなら胃痛で明日は来ないかも……」と笑って答え、「役職がある人は大変ね」なんて心の中で他人事のように思っていましたが、予想しない展開に……。
査察日はちょうどProcessing Labの担当で、朝9時過ぎにSupervisorと共に1人の査察官がやってきて、仕事の流れについてSupervisorが説明していました。すると、査察官が私のそばにやってきて、「あなたが今やっていることを説明して下さい」と私に質問するのです。その質問に答えたら、「それをする際に確認すべき事項は?」と矢継ぎ早に質問を受け、なんとか答えることができたのですが、本当に質問されるとは思ってもいなかっただけに、査察官が部屋を出て行った後にはホッと胸をなでおろしました。
そう思ったのもつかの間、Dispensing AreaやFrozen Blood Labなど他の場所に行って作業するたびに、査察のタイミングと合ってしまい、査察官からはSupervisorの説明中じっと私の業務を見つめられ、緊張は続き、「なんてタイミングの悪い日だろう!」と心の中で叫んでいました。それは前日に他人事のように考えたバチが当たったのかも……。
3人の査察官はそれぞれが査察を分担し、SupervisorとCompliance Officerがついて輸血部全てのLabを回り、お昼まで行われていました。午後は、午前中に受けた質問に対する答えやAABBの基準に沿ったことが、SOPに記載されているかどうか、全てのSOPを閲覧する作業を行っていました。
また、QCの記録、試薬の取り扱い説明書の保管だけでなく、試薬取り扱い説明書のバーコード番号が変更された際に本文内容も変更があるか等のチェックをSupervisorが行った記録の確認まで行われ、査察は朝9時から夕方4時過ぎまでビッシリとあり、「これがホントの査察だ!される方もする方も大変だ!」と実感しました。
AABBの査察とは別に、院内のInfection Controlの査察も10月下旬に行われました。各Labを回り、血液や血清を誤ってこぼした際に使用するVirexが全ての部屋に置かれているか、目の洗浄機周りが清潔に保たれているか等、biohazardの取り扱いについて等のチェックです。院内の査察でも容赦ない質問があり、「院内査察もこれまた大変だ!」と感じた次第です。
また、11月始めには全ての職員が一年に一度は受けることが義務付けられているFire SafetyとInfection Controlの講義を受けました。火災を発見した際に行う手順「RACE」1.R:Rescue(危険に遭ってる人を助ける)、2.A:Alarm(警報機を押し、院内のEmergencyに電話連絡する)、3.C:Confine(全ての窓とドアを閉める)、4.E:Extinguish/Evacuate(消火、もし指示があれば避難)や、様々な緊急時の合い言葉(例えば火災の時には“Code Red”、心停止の人を発見した際には“Code Blue”など)、消火器の種類と使い分けなどの説明の受講です。
Fire Safetyについては、3ヵ月ごとに用紙に書かれている質問に答える形での確認試験が行われ、常に携帯するIDバッジと一緒に、上記のRACEについてやCode名やそれぞれの緊急時の院内のPhone numberが記載されたカードの携帯が義務付けられているので、否が応でも覚えてしまっています。
Infection Controlについては、感染物の取り扱いや、誤穿刺など感染物による暴露の際の手順についてから、正しい手洗いの仕方まで説明があり、当たり前のように知っていることでも、説明を受けると、「あーそうだったな」と再認識できることを実感しました。
日本との文化の違いを、査察や病院の緊急時対策にも感じられた今日この頃でした。
Medical Academy NEWSで好評連載中「坂本美佐のボストン便り」は、マサチューセッツ総合病院の臨床検査技師である坂本美佐さんからの「お便り」です。病院での仕事はもちろん、“フェンウェイ球場で起こるイチローへの大ブーイング”など、硬軟おりまぜた幅広い話題で楽しめますのでご覧ください。
坂本美佐氏 1988年藤田保健衛生大学卒。藤田保健衛生大学病院、愛知県赤十字血液センターなどで輸血検査に携わり、現マサチューセッツ総合病院輸血部。
連載 坂本美佐のボストン便り
- No.42「最終回」
- No.41「手術しました」
- No.40「やっぱり黄色」
- No.39「州民皆保険制度」
- No.38「患者となって」
- No.37「カードがいっぱい」
- No.36「不思議の国の……」
- No.35「両刃の剣」
- No.34「サンクスギビングデー」
- No.33「カーシェアリング」
- No.32「いつから新年度?」
- No.31「病院に学習室?」
- No.30「Give me a hug」
- No.29「レクチャー」
- No.28「ナンタケット」
- No.27「Lab Week」
- No.26「笑う門には……」
- No.25「働きざかり」
- No.24「ピアノマン」
- No.23「パーティー」
- No.22「予期せぬこと」
- No.21「秋の風物詩」
- No.20「受診するのも大変」
- No.19「MOVIN’ OUT」
- No.18「病院にベルマン」
- No.17「The Fourth of July」
- No.16「テスト?」
- No.15「Blood Donor Center」
- No.14「サマータイム」
- No.13「文化の違い?」
- No.12「難しいタイミング」
- No.11「勤務通信簿!」
- No.10「査察!」
- No.9「秋なのに熱いボストン」
- No.8「近そうで遠い」
- No.7「Early bird」
- No.6「日本ブーム?」
- No.5「VACATION!」
- No.4「MGHのサービス」
- No.3「ご近所様は?」
- No.2「冬のあとには」
- No.1「はじまりはいつも……」